たまたま場所がトー横だっただけ?
僕はモカさんへの取材を通じて、トー横界隈について「精神的に追い詰められた人たちが、死に場所を探し回った挙げ句にたどり着く場所」という印象を持っていた。未来に希望を感じられず、この瞬間を刹那的に生きているような、そんなイメージだ。
しかし、目の前にいるユイト君には起業という将来の夢があり、その仲間をトー横で集めるという目的意識もあった。ここに来たら普段なら出会えないような人と知り合いになれて、コネや人脈ができる。
そういう意味では、サラリーマンが異業種交流会に参加して名刺交換することと、ユイト君がトー横界隈に通い続けることは、大きく違わないとも思える。
将来への建設的な考えをしっかり持っているユイト君を見ていると、「彼ならトー横でなくてもうまく生きていけるのではないか」という思いが僕の頭をよぎる。社会に出て、赤い髪を黒く染め、スーツとネクタイを身につけて名刺交換をしている、そんなユイト君の姿を想像するのは難しいことではなかった。
それに正直なところ、モカさんのような「ここにしか居場所がない」という切実な雰囲気をユイト君には感じなかった。アルバイトで稼いだお金でトー横に遊びに来ている高校生、という印象の方が強い。
家に一人でいるよりも友達といっしょに遊ぶ方が楽しい。トー横に行けば友達に会える。たまたま場所がトー横だっただけで、ゲームセンターで友達とつるむ普通の高校生と大きくは違わないように僕には見えた。
僕はユイト君の話を聴いて、トー横キッズのことがますます分からなくなった。トー横キッズとは、いったいなんなのか。