15歳の少女「両親がいる家に帰ったのは2年前」
僕は、彼女と会った直後に交わした会話を思い返した。両親がいる家に近寄らず「一番最後に帰ったのは2年前」だとモカさんは話していた。
歌舞伎町で10歳から現在まで約5年間もの期間を過ごし、直近2年間は一度も家に帰っていないと語った彼女。「さすがにご両親から連絡があるのでは?」と聞くと、モカさんは食い気味に「ないです」と答えた。その瞬間だけ、彼女の目が少しだけ曇って見えた。
取材中にどんな質問を投げかけても、飄々と、淡々と、時にはにこやかに答えてくれた彼女が、この時だけは胸の内に渦巻く激しい感情を露わにしたように僕には思えた。両親からの連絡は「ない」と言い切ったモカさんは少しの沈黙のあと、こうつぶやいた。
「どうでもいいと思う……」
これを聞いて僕は、両親が自分の娘のことをどうでもいいと思っている、という嘆きの言葉だと理解したのだが、もしかしたら彼女が両親のことを「どうでもいい」と突き放していたのかもしれない。
現在の両親はモカさんに対して無関心だという。
モカさんは精神科病院に5ヶ月間ほど入院した経験がある。僕が話を聞いたのが2月で、前年の年末まで入院していたという。つまり、両親のもとに帰らずにいるこの2年の間に起きた出来事だった。当然、両親にもモカさんの入院を知らせる連絡が入ることになったが、その時の両親の振る舞いをモカさんはこんなふうにばっさりと切り捨てた。
「心配なフリだけして、迎えに行くフリだけして、終わり」
両親は病院の職員に対して世間体を気にして「心配なフリ、迎えに行くフリ」をしているのだと彼女は淡々と話した。そうした大人に対する諦めや、ある種達観したような観察力は、彼女が親から虐待を受けていたことと無関係ではないように僕は感じる。
こんな話を聞いたことがある。
虐待を受けながら育つ子どもは、自分の身を守ろうとする防衛本能によって「どうすれば愛されるのか? 愛してもらえるのか?」ということに注意を向けるようになる。その結果、周囲の大人に対する観察力が異常に発達するという。
さっき出会ったばかりの間柄に過ぎない僕の質問に対して、複雑すぎる家庭環境や入院歴といったプライベートな事情をモカさんは語ってくれた。彼女は達観した観察力によって、僕のことを「危ない大人ではない」と判断してくれたのかもしれない。僕の方も、モカさんの過剰に赤く塗られたアイシャドウに慣れてきた気がした。
続けて、モカさんは実の父親との間に起きた出来事を僕に打ち明けてくれた。
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