ホストと客の関係性に横たわる深い闇
2,000万円を「使わされた」「奪われた」という感覚があれば、相手を恨む感情がその人の中に芽生えても不思議はない。物騒な例えで良くないかもしれないが、2,000万円という金額は事件の動機になり得るし、現実には数百万円をめぐる強盗や殺人のニュースも目にする。マナミさんが失った2,000万円は、人が人に危害を加えてもおかしくない金額だと言えよう。
しかし、マナミさんが元彼を語る上で基準にしている物差しは、「奪われたかどうか」「恨んでいるかどうか」ではなかった。彼女は元彼とのエピソードを「好きかどうか」という物差しだけで語り続けた。
その時の自分は元彼を好きだったが、今の自分は元彼のことをもう好きではない。マナミさんは元彼との関係を、使った金額ではなく「好きかどうか」という点にこだわって僕に話していた。
マナミさんは2,000万円を使ったのに、別れた元彼のことを恨んでいない。そして、相手のホストはマナミさんに2,000万円という大金を〝使わせて〞同棲までしたのに、彼女から恨まれることなくスパッと関係を断ち切った。
僕は、ホストと客の関係性に対して深い闇を感じつつ、その一方で大きな興味を抱いた。今、彼女が「担当」と呼ぶホストに対しても、マナミさんは「全部好き」と言い切る。僕は、僕なりに核心を突いた質問をマナミさんに投げかけてみた。
「その人(担当)にホストクラブでお金を使うじゃないですか」
「はい」
「マナミさんの中でゴールはあるんですか?」
「結婚はしたいなと思う」
「だからやっぱりお金を使うっていう感じ?」
「うんうん」
「(結婚)できると思いますか?」
「できないと思います」
「それでも(ホストクラブに)行っちゃうんですか?」
「はい」
「会いたいから?」
「うん」
「元彼のことは、もう別に好きじゃないんですか?」
「はい」
「その人のことも好きで、すごいお金を使ったんですよね。でも、今はもう全然(好きじゃない)。今好きなその人も、いつかそういう時が来る気がしませんか?」
「はい」
「と思ったら、今使ってるお金、ちょっとバカらしい気がしませんか?」
「んー、しない」
僕の問いかけはマナミさんにはまったく響かず、この日の取材は終了した。
青柳 貴哉
※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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