自宅で介護をしていた夫が亡くなり、相続手続きを始めた由美子さん(68歳女性)。相続人は、妻である自分と子ども二人だけだと思いきや、夫には先妻との間に二人の子どもがいると言います。遺言書もない複雑な遺産分割において、由美子さんの介護における貢献は寄与分として認めてもらえるのでしょうか。本記事では、遺産分割において寄与分が認められるケースについて、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。
介護してきた妻の寄与分は?
司法書士に「10年も自宅で介護してきた妻の寄与分はないのか?」と聞いてみましたが、寄与分が認められることは難しいという返事。困った由美子さんは別の知人から紹介されて相談にこられたのでした。
2人の子どもたちは独立して同居をしておらず、仕事もしているため、介護に協力してもらうことは難しい状況。先妻の子どもは行き来すらしていないため、さらに期待できず。結果、由美子さんが仕事をやめて、ずっと自宅でひとりで介護を担当してきたのでした。
由美子さんの貢献により夫の生活が成り立ってきたのは明らかだと言えますので、遺産分割協議において考慮してもらいたいところ。
介護における貢献は寄与分として考慮される
妻が被相続人(夫)を介護していた場合、その介護が相続財産の維持・増加に貢献したと認められる場合には、寄与分として考慮される可能性があります。ただし、妻が相続人である場合の寄与分は、一般的に認められにくい傾向にあります。以下がその理由と条件です。
1.法律上の役割としての貢献とみなされるケースが多い
配偶者の介護は、家族として当然の役割であるとされ、特別な貢献とは見なされにくい傾向があります。そのため、妻の介護については「寄与分」として認められるには一定の基準が必要です。
2.具体的な寄与分が認められるための条件
介護が相続財産の維持や増加に特に寄与したと評価されるためには、次のような条件を満たす必要があります。
- 長期間にわたり、特別な介護やサポートを提供した
- 外部の介護サービスを利用する代わりに妻が全ての負担を担ったことで、財産の減少を防いだ
- 通常の家族の役割を超えた負担や犠牲を負ったと認められるケース
3.寄与分が認められる可能性があるケース
例えば、妻が仕事を辞めて夫の介護に専念し、介護費用が大幅に節約された場合など、経済的貢献が明確であれば、寄与分として認められる場合があります。また、長期間にわたる24時間介護を続けたケースでも、寄与分が考慮されやすいです。
4.遺産分割協議での合意の可能性
法律上、寄与分の認定が難しい場合でも、遺産分割協議で相続人が全員合意すれば、実質的に寄与分を考慮した分割が可能です。この場合、他の相続人との話し合いによって、妻の介護の貢献を認めてもらう形で調整することが現実的な解決策となります。
介護の寄与分が認められるには相続人間での協議が重要であり、必要に応じて第三者を交えた話し合いや専門家の助言を得るとスムーズに進みやすくなります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例