今回は、自分のビルの市場ポジションをより明確にするため、比較対象となる「競合物件」の選び方などを見ていきましょう。

大手4社のビルを見学する理由とは?

競合物件と自ビルを比較するためには2つの方法があります。ひとつは景況に関係なく、一定の成績を収めていることの多い大手4社のビルを見学し、オフィスビルに求められるものの全体像を把握する方法です。

 

どんな業種でも新しい製品を市場に出そうとするときには、市場に同種の商品があるか、その商品にニーズがあるか、いくらであれば売れるかなど、細かく市場を調査しますが、他のビルを見るのはそうした市場調査と同じことなのです。本来はビルを建設する前にやるべきことですが、事前に行わなかった場合には事後であっても構いません。ぜひ、空室を埋めるためにやってみましょう。

 

特に大手のビルを見ることを勧めるのは、大手には長年にわたる経験があり、ビルそのものにリサーチの積み重ねがあるからなのです。中小オフィスビルのオーナーである個人に欠けているようなノウハウを大手のビルから学べるかもしれません。また、同じビルを見るのであれば、成功している、よいビルを見なくてはいけません。

 

骨董の世界では見る目を養うためには「よいもの、本物を見なさい」というそうですが、ビルも同じ。ダメなビルを見続けていると、ダメでもいいやと思うようになり、よいものを提供しようという志がなくなります。それでは当然のことながら空室は埋まりません。具体的には三井不動産、三菱地所、住友不動産、森ビル、この4社のビルを見ます。

 

ただ、あまりに規模の大きなビルや高層ビルは見ても参考にならないので、階数でいえば10~20階の中高層ビルで、1フロア300坪以下のビルにしましょう。過去10〜20年の間に造られたビルで規模の小さいものから10棟を選び、連載第1回で紹介した「物件評価書」を片手に、違いを考えつつ、見て歩くのです。

 

こうしてビルを見て歩くと、会社によって外観やデザインなどに違いがあることや、会社ごとにその会社なりの個性があることがわかってきます。それと同時に、差異はありつつも、テナントの要望に共通して応えている点もわかるはず。

 

そのあたりがわかるようになれば、市場全体のなかで、ニーズと大きくずれるようなビルを造ることにはならないはずです。もちろん、自分のビルのどこがニーズとずれているのか、どこがダメなのかも明らかに見えてくるでしょう。

競合するビルを調べて自分の進路を知る座標軸に

次の作業は実際の市場で自分のビルと競合となる物件をピックアップし、比べてみることで、自ビルが市場でどのような位置にあるのかを知る作業です。

 

これは例えていえば、大海原にある船が進む方向を知るためには、自分が現在いる位置の緯度経度を知る必要があるのと同じこと。緯度経度がわからなければ、自分がどこに進んでいるのか、本当に行きたい方向に進むためにはどちらに向かえばよいかがわかりません。そこで競合するビルを調べて自分の進路を知る座標軸を持とうというわけです。

 

実際の作業は競合する物件を選ぶことから始まります。そこで問題はどのような物件を選ぶか。移転を考えている企業が自ビル以外に検討しそうな物件を選ばなければ、比較する意味がなくなりますから、ここでは慎重に競合物件を選ぶ必要があります。では以下、具体的な条件を見ていきましょう。

「地域」は近隣に絞り、「広さ」は上下に幅を持たせる

企業がオフィスを探す場合の立地は意外に流動的なものです。当社(サブリース)でも月島から明石町に移転する際、人形町、日本橋、八重洲、茅場町、室町、銀座、新橋、神谷町、田町、浜松町あたりまでの物件を検討しましたし、当初虎ノ門から赤坂エリア限定で探していたある企業が最終的に浅草のビルを借りた例も知っています。

 

どうしても本社の近くに子会社のオフィスを借りなくてはいけないなど特殊な事情がない限りは、都心エリア全域は競合になり得るのですが、そこまで範囲を広げると、相場の比較ができなくなります。

 

そこで自ビルの最寄り駅と同じ沿線の2~3駅、そのエリアを走る他路線のそれぞれ2~3駅くらいをピックアップして比較することにします。複数路線が利用できるのであれば、当然それら全部の沿線の周辺駅が競合になり得ます。

 

距離にすると3キロから5キロ圏くらいまででしょうか。都心から離れるに従い、多少駅の数や距離圏は変わってきますが、いずれの場合も自分で自ビルのオフィスを借りることを想定し、どこまでのエリアで比較するかを考えてみることです。

 

自ビルの基準階の面積が50坪だとして、競合になるのはちょうど50坪のビルだけではありません。企業が50坪のオフィスを探しているといった場合、その言葉の意味は「現在より社員が増える予定なので50坪程度は必要だろう」という具合に幅があり、ジャスト50坪でなければいけないという意味ではないのです。

 

その点を考慮し、自ビルの基準階が50坪だった場合には、競合物件は40坪から60坪と上下に幅を持たせた範囲で選びます。

「築年数」は幅を持たせ「グレード」は上を見る

築年数によるビルの劣化の度合いは実際の数字だけからはわかりません。管理、メンテナンス、改修工事が適切に行われているビルの場合、築20年といってもそこまでは劣化していないこともあり得るからです。もちろん、逆にまだ新しいビルなのに劣化が進み、見る影もないということもあります。

 

そのため、築年数についても面積同様、幅を持って競合となる物件を選ぶ必要があります。具体的には、自ビルが築10年だとしたら、築5年から築20年程度でしょうか。メンテナンスに自信があるなら、もう少し築浅のビルを対象に加えてもよいかもしれません。少ないよりは多めにピックアップしたほうがいいでしょう。そして、後日自分でビルを見に行ったときに、管理、メンテナンス、劣化の状況などを自分の目で確認し、本当に競合になり得るかを検討します。

 

最後に共用部分、設備などのグレードです。企業が新たにオフィスを探しているときには、移転によって業績を伸ばしたいと考えている場合と、業績の悪化にともない、経費を削減したいと考えている場合とがあります。もちろん、オーナーとしては前者に入居してもらいたいわけですが、空室が長く続いている場合には、どんな企業でもいいから入ってほしいと思うことがないとはいえません。

 

しかし、賃料が安ければそれでよいと考えているような業績の芳しくない企業を入居させてしまうと、賃料滞納や退去時のトラブルなど、後日の面倒につながりかねません。他のテナントに迷惑をかけ、退去が連鎖するような事態すら考えられます。そうならないためには、ビルの経営が辛いときでも、できるだけ優良な企業をテナントとして入れることを考えなくてはいけません。

 

競合するビルを考える場合も、自分のビルのレベルを10として、多少低めの7~8から15くらい、できれば同じくらいのレベルからそれ以上のビルを対象に考えたいところです。つまり、下を見ず、優良な企業が入りそうなビルを競合と考えるということです。

 

これはテナント審査時も同様で、空室が多く切羽詰まっているときには審査も早々に、とにかく入ってもらいたいと思ってしまいがちですが、本当は自分が厳しい状況にあるときほど審査を厳しくし、優良な企業に入居してもらうように努力すべきです。目先の利益を追う経営では長期的な成功は望めません。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

サブプライム問題、リーマンショックを経て、悪化した賃貸オフィスビル市場は依然厳しく、地方都市では都心以上に苦しい状況にあります。 そのような中、特に中小規模のオフィスビルは、バブル期以前に建った築20年以上のビル…

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