前回は、「募集キャンペーン」の効果的な実施方法などを説明しました。今回は、空室対策のひとつである「優良なテナント」を見つけるためのポイントについて見ていきます。

入居審査の時点で厳しくチェックし、トラブルを防ぐ

優良なテナントを選ぶことも長期的には空室対策のひとつです。そのためには、安心できる企業か、経営状況が悪くなっても居座らない企業であるか、この2点をチェックする必要があります。

 

安心できる企業かどうかについてはどの仲介会社でもチェックすると思いますが、新規に起業した中小企業の多くが5年以内に潰れるといわれる現状を考えると、経営破綻後に居座られないことも大事です。

 

具体的に安心できる企業かどうかを見るためにすべきこととしては、

 

①書類上でのチェック

②銀行に照会

③直接企業に行ってみて、社員が働いている雰囲気を見る

④社長と面談する

 

という手があります。

 

まず書類上で見るべきものとしては、最低でも2期分の決算書、社長の経歴書、社長個人の収入証明書類など。収益の傾向や最近の業績動向などを見ます。社長の収入が500万円以下であるなど、あまりに少ない場合には経営状況が悪い可能性があり、注意が必要です。

 

銀行には、取引銀行を通じて問い合わせを入れてもらいます。回答は「大丈夫でしょう」か「悪くはないでしょう」「わかりません」といった明言を避けるもののいずれかですから、後者の場合には疑念があると判断します。銀行は預金残高を見て貸付を行っているわけではなく、各企業の情報を調べ、信用でお金を貸しています。ですから、信用情報はいつも握っているのです。

 

明言を避けた回答を得た場合には直接企業を訪問、社員が働いている雰囲気を見ます。実際にいろいろな企業に行ってみればわかりますが、利益が上がっている企業には活気があります。電話があちこちで鳴り、社員たちは忙しく動き回っているものです。

 

これがしーんと、お通夜のような雰囲気だったら危険。なかには応接室とオフィスが別れていて判断しにくい場合もありますが、たいていは直接訪問すれば判断できます。

 

また、訪問時に出てきた社員の様子を観察しておくことも大事です。社会人としてなっていない対応しかできない社員を雇っているような企業には将来はありません。

 

もうひとつ、社長との面談もポイントです。ここで面談に応じようとしない企業であれば、その時点でダメです。

 

居座らない企業かどうかについては長年の経験でわかってくるとしかいいようがありません。一般論としては社長がごく普通の仕事をしてきた人なら大丈夫なことが多く、店舗系は人によってはやや危険も。反社会的な団体などは論外で、これについては警察に問い合わせをすればわかります。

 

入居審査の時点で、このように厳しくチェックしておくと、賃料滞納や経営がうまくいかなくなった場合などのトラブルが回避できることはもちろん、退去時の原状回復を巡ってのトラブルも予防できます。

 

当社では例がありませんが、最近、原状回復についてはテナント側で都合のよい施工業者を選択し、予算を下げようとするなどのトラブルが増えています。

 

そのような事態を避けるためには、契約時に原状回復についての取り決めをきちんと説明しておくことはもちろん、後日、契約時と異なることをいい出さない相手を選んでおく必要もあるのです。

賃料滞納が発生したらその日のうちに素早く対処する

このように、慎重に入居審査を行ったにもかかわらず、テナントに賃料滞納があった場合には即座に手を打つ必要があります。テナントに賃料を滞納したまま居座られた場合、空室以上に面倒なことになるからです。

 

そのため、当社では滞納がわかった時点ですぐに担当者が社長に会いに行くことにしています。時間的に間に合うのであれば当日、遅くても翌日には社長に会い次のようなことを必ず確認します。

 

●賃料はいつ支払えるのか?

●支払えるとしたら、そのための資金はどこにあるのか?

●資金を受け取る予定があれば、どこからいくら、どんな名目で支払われるのか?

 

つまり、支払いの見通しについての詳細を納得いくまで聞くのです。そこで確実に支払われることがわかれば問題はありませんが、そうでない場合、あるいは社長が、何かにつけ言い訳をし、まったく会おうとしないような場合には、すぐに弁護士に連絡を入れ、建物明渡訴訟も含めた対処を考えます。

 

こうしたやり取りは、どのビルオーナーも知識としてはわかっていても、実際の経験、ノウハウがなければそうそうできるものではありません。もちろん、お金もかかりますから、これらはビル経営のプロならではの仕事といえるかもしれません。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

サブプライム問題、リーマンショックを経て、悪化した賃貸オフィスビル市場は依然厳しく、地方都市では都心以上に苦しい状況にあります。 そのような中、特に中小規模のオフィスビルは、バブル期以前に建った築20年以上のビル…

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