前回は、日本の不動産取引の問題点を、アメリカの取引形態と比較しながら説明しました。今回は、効果的なテナントの「募集キャンペーン」を実施するポイントなどを見ていきます。

「間口を広く」営業するほうが空室解消に役立つ

日本橋なら繊維、渋谷ならIT系、本郷なら医療関係などと地域によってオフィスを借りる業種を固定観念からイメージし、その業種だけに営業をかけるようなやり方を見かけますが、これはいけません。

 

もちろん、本郷を歩いてみるとほかの街よりも医療機器関連の会社や医療系の出版社などを多く見かけますが、だからといって、そうした業種が他業種に比べてどのくらい多いのでしょう。誰もデータを取っているわけではないのです。

 

それなのに、医療系がよいはずと、ただイメージだけで決めつけ、営業範囲を狭めるのは自分で自分の首を絞めるようなもの。それよりもまんべんなく、間口を広く営業するほうが空室解消に役立ちます。これはデザイン、設備も同様で、IT系だから最先端のデザインが好まれるなどという傾向はありません。よいものはどんな業種にとってもよく、ダメなものはどんな業種にも受け入れられないのです。

インセンティブをつけて印象に残るキャンペーンに

テナント募集に際してのキャンペーンでは実施時期のタイミング、内容がポイントになります。リフォーム同様、やればよいというものではありません。

 

まず実施時期ですが、当社では長期に空室が続いている場合には同一ビル内で複数の空室が出た場合に行うものとし、四半期ごとに実施対象を検討しています。実施期間は通常3カ月。短期間では十分な告知が行えませんし、あまりに長期間にわたっても逆に効果が薄れてしまいます。

 

オフィスビル市場は、景気変動などの影響で非常に短期で変化しますから、半年も続くようなキャンペーンを行うと、その間に賃料などが実勢に合わなくなる危険もあるのです。キャンペーン実施時には競合物件のなかで優位に立てる、ぎりぎりの賃料設定を行っていますから、その優位が保てなくなるようなキャンペーンでは意味がありません。

 

さらには、オフィス案内時にテナントとなる企業、業者双方にクオカードを進呈するなどのインセンティブを行います。どんなものであれ、プレゼントはうれしいものですし、また、印象にも残ります。オフィスを探す企業は数多くのビルを見て比較検討しますが、その際に最初に思い出してもらえる物件になることが、とても大切です。

 

もちろん、キャンペーン用のチラシ作成、既存の仲介会社へのファックス、電話、メール、訪問等でのアピールなども同時に行っています。

 

もうひとつ、これはキャンペーン時に限りませんが、仲介会社からの質問に対してはできる限り迅速に答えるようにもしています。問い合わせに対する回答が1週間も2週間もかかるようでは、管理がいい加減と見られかねませんし、その間も空室状況は続きます。

 

仲介会社としても同じ手数料を得るのに、1週間しかかからないビルと、3週間かかるビルとでは、返答が早く、判断しやすいビルを勧めたいと思うのが道理。こうした積み重ねが当社のビルを決めてもらいやすくしているのです。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

サブプライム問題、リーマンショックを経て、悪化した賃貸オフィスビル市場は依然厳しく、地方都市では都心以上に苦しい状況にあります。 そのような中、特に中小規模のオフィスビルは、バブル期以前に建った築20年以上のビル…

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