「共用部分」はエレベーターはじめ広範囲を確認
エレベーターからオフィス内まで、この項目は非常に範囲が広くなっています。まず、エレベーターではサイズ、スピード、明るさ、管理状態などがポイント。サイズ、スピードに関してはエレベーターそのものを交換することになり、多額の費用がかかりますが、それ以外は比較的リフォームは容易です。扉から内部まで、天井も含めて隅々まで見て、評価します。
店舗など不特定多数の人が出入りするテナントが入居している場合、エレベーター内に落書きや煙草の焼け焦げなどが目につくことがありますが、これは管理、仲介会社のテナント審査などに問題があります。入居を希望する企業や他のテナントにマイナスイメージを与えるテナントは入居させてはいけないのです。
各階のエレベーターホール、廊下もエントランス、エレベーター同様に広さ、明るさ、清掃状況などをチェック。続いて、外観やエントランス、各種設備と並んで、いや、それ以上に古さが出やすいトイレ、洗面所、給湯室を見ます。
古いビルでは、トイレが男女兼用になっていたり、エレベーターホールや廊下からトイレや給湯室が来客に丸見えになっていることがありますが、これでは印象はよくありません。もちろん、便器などの衛生陶器類が古臭く、かつ手入れが悪いため、トイレ全体が薄暗く、汚らしく見えるなどは論外。こんなビルではたとえオーナーであっても自分で借りたいとは思わないはずです。
建物や設備は築10年を過ぎると、だんだんとくたびれてくるもので、15年以上になると古さが出ます。ただし、メンテナンスがよければ多少はカバーされます。その違いを知るためには自分のビルと同じくらいの築年数のビルを見てみること。同じ築年数でも手入れがきちんと行われているビルは古くても汚いというほどには見えませんし、古さがさほど気にならないものです。
そうしたビルでは空室が少ないことはもちろん、賃料も下がっていません。住宅も同様ですが、規模が大きい、あるいは管理や運営をしている会社がしっかりしているマンションやビルは長期的な修繕計画を立て、それに必要な予算を用意し、定期的にメンテナンスを行っています。
ところが、個人が経営する中小オフィスビルではそこまでの計画性、予算がないことが多く、手が回っていない。すると、同じ築年数であってもより古く見え、空室が続くことになります。同じ築年数で空室のないビルや大手4社(三井不動産、三菱地所、住友不動産、森ビル)のビルなどと見比べてみて、自分のビルが劣って見えるようなら、メンテナンスなどに問題があると判断できるわけです。
オフィスの内部は使いやすさを評価します。たとえば二重床。必ずしもすべての企業が要望するわけではありませんが、ОA機器の配線がしやすい二重床のほうが競争力は高いと考えられます。
あるいはスペースを仕切って使えるかどうか。エレベーターホール、廊下からの出入り口が1箇所にしかない場合には、1フロアを2社に分けて貸すことはできませんし、1社で使うにしても来客用と社員用の出入り口を分けることもできません。テナントの希望に合わせてフレキシブルに使える、そんな使いやすさが理想です。
年々高まる「セキュリティ」へのニーズ
セキュリティへのニーズはどの業種でも年々高まっています。これには2つの側面があります。
ひとつは不審者などがオフィスに入り込む危険の回避。特に小規模のビルに入居するテナントでは、昼間は女性事務員がひとりだけになってしまうようなケースも多く、非常に不用心。過去には爆破、放火などといった事件もありましたから、不特定多数が入り込めないようなセキュリティは今どきのビルの基本性能といっても過言ではありません。
もうひとつは情報流出という意味でのセキュリティ。これは、ソフト開発やIT系、証券会社など、もともと情報の取り扱いに敏感だった業種に加え、個人情報保護法などの関係で一般の会社でも顧客情報などに慎重さが要求されることになった影響でしょう。そして、この面でのセキュリティは今後、さらに重要とされてくるはず。ビルの性能として重視すべきポイントです。
そこで評価しなくてはいけないのは、セキュリティの方法、設備や委託しているセキュリティ会社などです。セキュリティに関しては新しければ新しいほど防犯性能は高く、テナントも安心しますから、自ビルに導入されているものがいつのものか、最新式のものに比べてどの程度古いのか、それを把握することが必要です。
加えて他テナントにマイナスになりかねないテナントを入居させてしまっていないか、テナント構成についても再度確認し直す必要があります。具体的には反社会的勢力や風俗店、飲食店など。イメージの悪いテナントが1社いることでビル全体のイメージが悪くなるような愚は避けたいものです。
ビルの場合は好みではなく、各項目の総合点で判断
「物件評価書」には、最後に「調整」という項目を入れてありますが、この部分を評価する前にここまでの5項目を五角形の図にしてバランスを考える作業をしてみましょう(図表1)。
もちろん、全体にバランスよく高得点を取れていればベストですが、実際にはそんなビルはそうそうあるものではありません。立地あるいは外観、共用部分など、どこかにどうしても平均よりマイナスになる点があるはずです。
まず、そこで考えるべきは、そのマイナスが経営の改善やリフォームなどで変えられるかどうか。マイナスのないバランスのよい五角形が目指せればベストだからです。しかし、立地のようにどうしてもオーナーには変えられないポイントもあります。そこで次に考えるべきは、マイナスはマイナスとして、それを上回るプラス項目をどこかに作れないか。住宅の場合は住む人の好みやどこか一点非常に気に入ったからという理由で不動産を選ぶことがありますが、ビルの場合には好みではなく、総合点で判断します。
つまり、クライアントや求職者に一番印象がよい、バランスのよいビルを選ぶのです。そう考えれば、改善可能な部分がわかってくるはずです。その上で最後に全体像として自分の個人的な感想も含めて、物件評価書の調整とある項目を評価、総合的な点数をつけてみます。
さて、それで自分のビルの総合点、評価はどうなっていましたか。これを踏まえて次は競合となる物件とさらに自分のビルを比較、市場のなかでの自ビルのポジションを明確にします。