(※写真はイメージです/PIXTA)

「どうせタダだし」。日常生活やビジネスにおいて、そんな思いで積み重ねている行動のウラに、多大な「機会費用の損失」が潜んでいることがあります。経済評論家の塚崎公義氏が身近な事例からわかりやすく解説します。

昼寝の「コスト」について考えてみる

昼寝にはコストがかからない、と考えるのが普通です。しかし、「昼寝をせずにアルバイトをすれば数千円稼げるのに昼寝をするなんてもったいない」と考えれば、「昼寝のコストは数千円だ」という理解も可能でしょう。そうした考え方を「機会費用」と呼びます。

 

選択肢が複数ある場合、「ほかの選択をすればもっと稼げたはずだ」という状況であれば、それを選んだことにはコストがかかっている、と理解するわけです。

 

学生サークルが学園祭で焼き鳥店を出店して3万円儲かったとします。それでサークル活動の費用が賄えると喜んでいたら、どうでしょう。「学園祭の期間中、本当の焼き鳥屋でアルバイトをしていたら、全員で30万円稼げたのではないか」と思いませんか?

 

まあ、学園祭の焼き鳥店は皆でワイワイいいながら試行錯誤するのが楽しいので、金銭面だけの損得で論じてはいけないのでしょうが、活動費用を稼ぐという目的だけを考えれば、大きな失敗だったといえるわけですね。ここではポジティブ思考をして、ワイワイ楽しむためのコストだった、と考えましょう。

 

大都会に農地が残っている場合があります。「あそこにビルを建てれば儲かるだろうに」と筆者が考えるような場所は、農地であることが機会費用となっているわけです。筆者は農地の税などに詳しくありませんので、農地の税法上の優遇措置等の影響かもしれませんが、「ビルを建てて大いに儲ければ、税金を払ってもいまよりよいのでは?」と、素人ながらに考えてしまいます。

営業部長がタクシーに乗る「納得の理由」

営業部員が客先に出向くときはバスなのに、営業部長が客先に出向くときはタクシーを使う、という会社は多いでしょう。「年功序列だから部長はえらい。だから給料も高いしタクシーにも乗るのだ」と考えるのが自然なのですが、ここでは年功序列の話を忘れてみましょう。

 

部長は経験が長く営業が上手であり、だからこそ給料が高くタクシーにも乗れるのだ、ということだとしましょう。そう考えると、部長がタクシーに乗る理由が2つ思いつきます。

 

「会社に貢献しているのだから快適なタクシーを使わせてあげよう」

 

ということに加え、

 

「部長がタクシー代を倹約してバスで行くと、移動に時間がかかり、訪問できる客先が減ってしまい、収入が減ってしまう。だからタクシーに乗って移動時間を節約しているのだ」

 

ということがあるわけですね。

 

一方の平社員は、タクシーに乗って多くの客先を回ってもどうせ大した儲けにならないのだから、バスでゆっくり移動すればよい、ということでしょう。

 

これは、部長がバスに乗ることの機会費用はタクシー代より高いので、部長はバスには乗らないが、平社員がバスに乗ることの機会費用はタクシー代より安いので、平社員はバスに乗る、ということですね。

 

つまり、部長が無能なのに年功序列でえらくなっている場合は、機会費用の高い優秀なヒラ社員がタクシーで移動し、機会費用の安い部長がバスでのんびり移動するほうが利益につながる…ということですね。社内政治のことはさておいて、ですが(笑)。

黒字の会社は「機会費用」に気づきにくい

零細の「パパママ・ストア」(夫婦とその家族もしくは1、2名のパート・タイマーで経営する小規模の小売店)が毎月20万円稼いでいるとします。店を閉めて2人でパートに出かければ、いまより多く稼げると思うのですが、そうした選択肢に気づいていない夫婦も多いようです。

 

零細ストアが赤字に陥れば「店を閉めて働きに出ようか」ということに気付きやすいのですが、黒字であることが、かえって選択肢に気づかない原因となっているのかもしれません。

 

大企業でも同様のことが起こり得ます。たとえば、社内のエリートばかりを集めて新事業部を立ち上げた場合などです。当初赤字なのは仕方ないとして、しばらくしても少額の黒字しか稼げない場合、社長は「エリートを集めたのだから、もっと稼げるはずだ。頑張れ」と檄を飛ばすでしょう。

 

しかし、それでも利益が増えない場合には、部署を解散してエリートたちを別の部署に移動したほうが、会社全体の利益が増えるかもしれません。部門が赤字を続けていれば社長も諦めがつくのでしょうが、少額ながら黒字を稼いでいると「部門を解散する」という選択肢を思いつかないかもしれませんね。

日々の会議や資料作成が「多額の損失」を生んでいる!?

企業に関して、まったく別の観点から機会費用について考えてみましょう。

 

無駄な会議が日本中で数多く開かれていることと思います。社内の会議にはコストがかからないので、みんな気楽に会議を招集するからです。しかし、会議を開いている時間にみんなが客先に営業しに行ったら大いに稼げるかもしれません。そうであれば、会議を開催することには莫大な「機会費用」がかかっていることになります。

 

無駄な資料作りに忙殺されているサラリーマンも多いでしょう。資料作りにも大したコストはかからないでしょうが、これも無駄な会議と同様、資料作りをやめて浮いた時間で客先に営業に行けば、大いに稼げるかもしれません。部下に無駄な資料作りを命じることは、多額の機会費用を生じさせることになりかねないので、注意しましょう。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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