せっかく買った本だが、つまらない…あなたならどうする?
タイトルを見て本を買い、読み始めたらつまらなかった、という経験は多くの人が持っているでしょう。そんなとき「本を買った代金がもったいないから、最後まで読もう」と考えて読んだ人も多いと思います。その結果、どうなりましたか? 本の代金と読んだ時間、両方損しましたね(笑)。
本の最初がつまらなくても、途中から面白くなるかもしれませんが、その可能性はあまり高くないでしょう。その可能性に賭けて読み続けることは賢い選択といいがたいのですが、それより問題なのは「〈買った代金がもったいない〉という考え方」のほうです。
本を最後まで読んでも、買った代金は戻ってきません。読んでも読まなくても戻ってこないのなら、読むか否かを考える際に買った代金のことを考慮に入れる必要はないはずです。もらった本であろうと高額の本であろうと、「読んで自分が幸せになれるか否か」だけを判断基準とすればいいのです。
「もったいないから取っておく」のはナンセンス
このように、払ってしまい戻らないお金のことを「サンクコスト」と呼びます。サンキューのサンクではなく、「沈んでしまった」という意味の英単語です。サンクコストはどうせ戻ってこないのですから、今後の行動を決める際には考慮すべきではなく、「なにが自分を幸せにするか」だけを考えるべきなのです。
読むと時間を損するので読まないが、捨てるのももったいないから本棚に置いておく、という人も多いでしょうが、よほど広い家に住んでいるのでない限り、その本を捨てて広々と暮らすほうが「買ったけれども読んでいない本、着ていない洋服に囲まれて狭苦しく暮らす」より幸せになれると思いますよ。
入場料を支払って食べ放題の店に入ったら、払った代金のことは忘れましょう。「元をとらなければ」と考えて、おなか一杯なのに必死で食べ続ける人がいますが、満腹になったら食べるのをやめましょう。さらにいえば、料理が口に合わなかったら食べずに店を出ることだって選択肢です。家に帰ってお茶漬けを食べたほうが、幸せになれるかもしれませんから…。
自分の愚かさを認めたくないばかりに、不幸せな道を行くのは…
こんな本を買った自分が愚かだった、食べ放題の店を選んだ自分が愚かだった、などと考えるのは嫌なものです。だからといって、わざわざ不幸せになる選択肢を選ぶ必要はありません。
「他人に愚かだと思われたくない」というのはよくわかりますが、自分で自分のことを愚かだと思いたくない、というだけの理由で不幸になるのは避けたいですよね。
企業の場合も同様です。工場が7割完成したところでライバル企業が画期的な新商品を発売し、工場で予定していた製品が売れないことが明らかになったとしましょう。「いままで使った工事代金がもったいないから完成させよう」と考えると、工事代金の7割ではなく、10割損することになりますから、キッパリ諦めて工事を中止すべきでしょう。
もっとも、組織の意思決定の場合には、サラリーマンとしての処世術も絡むので、慎重に判断しましょう。工場建設を推進していたのが社内の実力者だったりすると、工事中止を進言したことで社内での地位が危うくなるかもしれませんから。
「株の損切り」も同じこと
株式投資をしている人から「1,000円で買った株が800円に値下がりしたが、どうすべきか」「500円で買った株が800円に値上がりしたが、どうすべきか」といった質問をされることがあります。
筆者の答えは「いまから新しく株式投資を始めるとして、その株を買いますか?」です。1,000円で買おうと500円で買おうと、株を買った時点で支払った代金はサンクコストになるわけですから、いまから自分が幸せになるための意思決定には関係ありません。
「その株は値上がりすると思いますか?」という質問を返すのでもよいのですが、「その株は値上がりすると思いますが、ほかにもっと値上がりしそうな株があります」という場合には、やはりその株を売って、別の株に乗り換えるべきでしょうから。
投資初心者は損切りが下手だといわれます。買った値段より値下がりすると、「いま売ったら損が確定してしまう。それは嫌だから、買い値まで戻るのを待とう」と考えるわけです。
そのまま値下がりを続けるのを傍観して大きな損失を被る場合もありますし、買い値まで戻ったところで無事に売り抜けて損を取り戻す場合もあるでしょう。「やれやれ売り」などといわれるものですね。
しかし、株が下がったときにするべきなのは「株価は戻るだろうか?」と考えることであって、「戻ることを祈りながら待つ」ことではありません。
同様に、買い値に戻ったときにすべきことは「上がると思って買ったのだから、持っていたいが、買ったときの判断を変更しなくていいだろうか?」と自問自答することであって、「やれやれ、損をせずにすんだ。こんな株は見たくないから、急いで売ってしまおう」と考えることではないのです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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