(※写真はイメージです/PIXTA)

医療機関に電話するシーンを思い浮かべてください。身体のトラブルを抱えながら電話をしているのに、なかなかオペレーターにつながらなかったり、思うように診察の予約が取れなかったりして、イライラした経験がある人も多いでしょう。医師は患者が希望する場合、正当な理由がなければ、診療を行わなければならないという原則(応召義務)がありますが、時として病院の処理能力を超える電話というアナログな部分がネックになることも。本記事では、病院で活用される「AI予約電話」を通じて、DXが進む医療機関の今後を、医療法人徳洲会、湘南鎌倉総合病院・事務長である芦原教之氏が考察していきます。

高齢者にオンライン受付

電話応答フローの見直しと並行する形で、もう1つ試みたのがオンライン受付です。ウェブサイト内に外来受診申込フォームを設けて、予約変更・キャンセル・定期受診の予約を受け付けられるようにしました。また、家族や友人との連絡手段として広く浸透したLINE公式アカウントにも外来受診申込フォームと同じ内容を入力できる仕組みを用意しました。

 

予約関連の電話受付ができる時間は限られていますが、オンライン受付であれば、24時間365日対応が可能ですので、利便性が確保できるのではないかと考えました。しかし結果は、3ヵ月の累計で約200件程度の利用に止まったのです。さらに、その大半がウェブサイトの外来受診申込フォームからのものであり、LINE公式アカウントの外来受診申込フォームの利用はごくわずかでした。

 

現在、都市部のクリニックなどではオンライン受付が主流となっていますが、当院の患者さんは高齢者が多いため、オンライン受付よりも電話受付を選ぶというニーズが浮き彫りとなりました。

飲食店の電話予約システムを参考に

このように電話応答について試行錯誤しているなかで見つけたのが、AI技術を搭載した電話自動応答システム(IVR:Interactive Voice Response)でした。居酒屋などの飲食店の予約電話の応対で、使われているところもあります。

 

AI予約電話の開発と運用

筆者は、医療従事者用のコミュニケーションインフラを提供する事業者の方に問い合わせ、患者さんの声と機械音声のやりとりをテキスト化して参照できる、AIを搭載した電話自動応答システムを導入することになりました。

 

それから、実際の運用から基本的な仕様まで協議を行った結果、電話交換手が行う1次対応のうち、まずは定型的な要素の多い「予約変更・キャンセル」(全体の約1割)に限ってシンプルな電話シナリオを運用することに。

 

電話交換手の業務の一部をAI電話に置き換えるだけにして、AI予約電話が対応した結果を見ながら各診療科のメディカルクラークが折り返し電話をかける形です。電話自動応答ですから、原理的には24時間受け付けることも可能です。しかし、うまく予約できない場合には、すぐに対応できる病院の受付時間だけにするなど、基本的なAI予約電話のコンセプトを固めていきました。

 

AI予約電話に関して、さまざまな考察をしてきた経験を踏まえますと、すべてをAIにやってもらうのは、まだ現時点ではうまくいかないでしょう。定型的な部分だけをAIに任せ、さまざまなニーズ・例外的なニーズを持つ患者さんに対しては電話交換手やメディカルクラークが臨機応変に対応するという「AIと人のハイブリッド」で業務設計するのがもっとも効力の感じられるやり方だと思われます。

 

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