抗がん剤治療のできない原発不明がんの治療法とは
息子の康平は「そもそも誤診だったのではないのか」と言った。しかし、私はそうは思わない。私はしぶとい性格なので、医師からサードオピニオンを聞いたあとも、複数の医師に診断当時のデータに基づいてどう診断するかを尋ね続けた。そして全員が「すい臓がん」と答えたのだ。つまり、診断を誤ったのではなく、そう診断するしかないデータだったのだ。
しかし、血液パネル検査の結果は、診断を根底から覆した。「すい臓がんでなくてよかった」と思われるかもしれない。だが、じつはこの診断変更は、私に大きな困難を突き付けることになった。
それまでは、すい臓に病変は見られないものの、原発はすい臓のどこかにあるという診断だった。
ところが、新しい診断では、原発がどこにあるのかまったくわからないということになった。それまでも手術と放射線治療はできなかったのだが、そこにすい臓がん向けの化学療法(抗がん剤治療)もできないことになってしまったのだ。
しかし、診断をした医師から思わぬ言葉が発せられた。
「原発不明がんの場合、保険適用でオプジーボが打てますよ」
オプジーボというのは、ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が発見した「がん免疫治療薬」だ。
抗がん剤は、直接がん細胞を攻撃して消滅させようとする。一方、オプジーボは、免疫の力を回復させることで、がんへの攻撃力を回復させる「がん免疫療法」の治療薬だ。
がん細胞は、免疫細胞の働きにブレーキをかけて攻撃から逃れているが、オプジーボはそのブレーキを解除する効果を持ち、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようにする。