『地面師たち』で描かれた不動産取引詐欺は、他人事ではない
7月25日から配信スタートとなったNetflixシリーズ『地面師たち』、皆さんはご覧になりましたか? 本シリーズは、実際にあった巨大不動産詐欺事件をモデルに、綾野剛さんや豊川悦司さんらが演じる地面師集団の犯罪を描いたものです。
地面師とは、土地の所有者に成りすましてその土地の売却を持ちかけ、買手となった人から代金をだまし取る詐欺師のこと。あるいは、そのような手法で行われる詐欺行為のことをいいます。
ドラマでは、綾野剛さんや豊川悦司さん以外にも、北村一輝さん、ピエール瀧さん、小池栄子さん、染谷将太さん、リリー・フランキーさん、山本耕史さんなどなど、筆者の好きな俳優が勢ぞろい。筆者は原作小説(新庄耕著『地面師たち』)は未読ですが、キャストを見た時点で名作に違いないと期待が膨らみました。結果としてやはり非常に面白く、週末に全7話を一気見してしまいました。
題材が「地面師」=不動産に関する詐欺の話ですので、筆者ら司法書士や不動産業者など、不動産を扱う業界人の間でもかなり話題になっています。
司法書士は常々、不動産取引の立ち合いを行っています。東京オリンピックのちょっと前、特に都内で不動産価格がぐんぐん上がっていた時期は地面師事件が多く、司法書士の会では年1回は情報が上がってきていました。筆者が事務所を置いている町田市内でも発生していて、知人の事務所が立ち会った取引が実は地面師事件だった…ということも。職業柄このような事情もあり、他人事ではないという気持ちでドラマ『地面師たち』を観ていました。
しかし、業界人ではない世間一般の方々も、現実で地面師に遭遇する恐れがあります。
前置きが長くなりましたが、本稿では、司法書士の立場から「ハイリスクな不動産取引」を紹介します。どのような不動産だとハイリスクなのか、ハイリスクな取引を回避するにはどうすればよいのか。1つずつ見ていきましょう。
司法書士が教える「ハイリスクな不動産取引」の要件9つ
【要件①】土地が「更地」である(売却する物件に人が住んでいない)
⇒土地の上に建物があり、そこに本来の所有者が住んでいる(=居住実態がある)としたら、通常、地面師がその人に成りすますことは難しくなります。裏を返せば、誰も住んでいない「更地」や「空き家」は成りすましを行いやすく、ハイリスクな不動産取引の要件の1つと言えます。
【要件②】物件が高額(数億円規模)である
⇒例えば「数百万円の物件A」と「数億円の物件B」が地面師の売却候補になったとします。どちらで詐欺行為を働くにせよ、逮捕されるリスクは変わりません。それなら数億円を得られる物件Bを売却したほうがいいに決まっています。よって高額な物件は地面師に狙われやすい、つまりリスクが高いと言えます。
【要件③】抵当権等がなく、登記簿の「乙区」が綺麗な状態である(図表参照)
⇒不動産売却における決済(残金支払いと物件の引き渡し)では、所有者の名義を買主に変更する必要があります。この名義変更の手続きを「登記」と言います。
抵当権がついている場合は、売主側についている抵当権を消してから買主に名義変更する、という流れになります。
地面師が売主になっている場合、残代金は地面師側が用意した口座に振り込むことになりますが、この手法は抵当権等がついていると使えません。抵当権等を消すには「抵当権等をつけている銀行」の口座に代金を振り込まなければならず、そこに至るまでの過程で、抵当権者(銀行)と売主の間で抵当権を抹消するためのやり取りが生じます。
よって、地面師にとっては抵当権等つきだと狙いにくく、逆に乙区が綺麗で抵当権等がついてないケースは口座を指定できるので好都合=狙いやすい、ということになります。抵当権等がついているかどうかは、登記簿の「乙区」で確認できます(図表参照)。
【要件④】売主が売り急いでいる
⇒取引が長くなるほど成りすましを見抜かれる可能性があるため、地面師は可能な限り早くさばきたいと考えます。場合によっては、急いで売るために金額を少々下げるなども行います。
【要件⑤】売主に「コンサル的な謎ポジションの人」がついている
⇒地面師が成りすましている場合、売主が1人で諸々の手続きをするのではなく、その隣に「資産管理をしています」「コンサルティングをしています」などと謳う謎ポジションの人がついています。
ドラマで描かれたように、地面師は1人でなくチーム(集団)で詐欺を働きます。ただし厳密にいえば、売主に成りすましているのは本物の地面師ではなく、実はどこからか見繕ってきた「素人」。売主役として、その取引でのみ採用されたスポット要員です。ドラマでは小池栄子さんが「成りすまし犯」を手配する役回りでしたね。
地面師はその素人に売主の情報などを覚えさせたら、自分自身は監視役や指示役として必ず近くにいるはずです。これこそが売主の横にいる「コンサル的な人」の正体です。取引で売主単独でなく謎ポジションの人がついてきたら、怪しいかも…と考えたほうがよいでしょう。
【要件⑥】なかなか売主に会えない
⇒売主は本来の所有者ではありませんから、何回も会わせればボロが出る可能性があります。ちょっとした世間話でも、辻褄が合わない部分が出てきて怪しまれるかもしれません。成りすましを見破られるリスクはなるべく抑えたいので、地面師の立場としては、売主に会わせたくないのです。
【要件⑦】本人確認書類や権利証の事前確認を嫌がる
⇒要件⑥と同様で、地面師はなるべくボロが出ないように立ち回ろうとします。本人確認書類等は偽造して用意したものなので、確認には見破られるリスクが伴います。そのため基本的には事前確認を嫌厭し、なるべく少ない回数かつ時間ギリギリで確認させようとします。
【要件⑧】「権利証を紛失した」と言う
⇒権利証自体を偽造してくるパターンもありますが、基本的には権利証がなくても不動産売却は可能です。司法書士が権利証に代わる本人確認情報を作成すれば、権利証を偽造する必要はありません。偽造を見破る方法は複数あるため、偽造するという行為にはリスクが伴います。ですから、そもそも紛失したことにしたほうが、偽造する手間もリスクもなくて好都合なのです。
【要件⑨】登記済証時代(平成17年より前)の不動産である
⇒これは権利証がある場合に限った要件です。権利証のフォーマットは平成17年を境に変更されており、現行のものは登記識別情報通知という紙です。登記識別情報通知にはパスワードが記載されており、そのパスワードが一致しないと登記申請が通りません。パスワードは普段は見えないようになっているため、その内容を知ることは容易ではありません。また、パスワードを偽造することもほぼ不可能です。
現行の登記識別情報通知の不動産でも、要件⑧のように権利証自体を紛失したと主張するパターンであれば成りすませないわけでもありませんが、平成17年以前はその紙自体が権利証の役割を果たしていたので、現行のものに比べて偽造しやすいのです。よって、登記済証時代の不動産のほうがどちらかというと狙われやすいと言えます。
以上の9つが「ハイリスクな不動産取引」の要件ですが、全部に該当すればハイリスクというわけではなく、いくつか満たしているだけでも要注意です。売主となっている人が本当に所有者本人なのか、慎重に確認しましょう。
ハイリスクな不動産取引を回避するには?
ハイリスクな不動産取引を回避する方法は「司法書士に依頼すること」です。
不動産取引は司法書士にとってメインの業務ですから、決済の知識と経験はどの士業よりも豊富です。
また、ほとんどの司法書士事務所は賠償保険に加入しています。そのため万が一、司法書士の過失で売主のなりすましを見抜けず買主に損害が生じた場合には、数億円の賠償責任でも補填することが可能です。司法書士に依頼すること自体が「保険替わり」にもなるのです。
司法書士の費用にはいろいろな条件があるので一概に「いくらかかります」とは言えませんが、10万円、20万円ということも珍しくありません。そう聞いて「あまりにも高い」「それなら自力で何とかしたほうがよいのでは」と感じる方もいるでしょう。しかし、不動産の高額さを考えれば決して無駄な出費ではありません。安心を買うという意味でも、万一損失が生じた場合に備えるという意味でも、選択肢の1つとしてご検討いただければと思います。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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