恐ろしい…「勝手に代表取締役を変更→会社乗っ取り」が“割とありえる”理由【司法書士が解説】

恐ろしい…「勝手に代表取締役を変更→会社乗っ取り」が“割とありえる”理由【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

会社の登記は、不動産に比べて「セキュリティが甘い」といわざるを得ない側面があります。「辞任届を偽造し、理事を無断で解任させた」とする最近の報道事例を基に、司法書士・佐伯知哉氏が解説します。

会社の登記は「セキュリティが甘い」!?

2025年3月11日、鹿児島ユナイテッドFCの代表者が、虚偽登記の疑いで書類送検されたというニュースが報じられました。同氏は、関連団体(社団法人)の理事を辞任させようと、無断で辞任届を作成・押印し、法務局に提出したとのことです。

 

この事件は、辞任届を作成された理事本人の告発で捜査が開始されました。本人がたまたま登記を確認したところ、役員に関する事項に自身の名前がなく、すでに辞任したことになっていたといいます。

 

この事件について、「本人に無断で辞めさせることが可能なのか?」と不思議に思った読者は少なくないでしょう。事件の背景には、会社登記の「セキュリティの甘さ」が挙げられます。

不動産の登記には「厳格な本人確認」が必要だが…

 会社の登記は、不動産に比べてセキュリティが非常に甘いといわざるを得ません。

 

一般的に不動産は価値が大きいことから、売買する際の登記の変更では、以下を通して厳格な本人確認を行います。

 

・司法書士や行政機関がしっかりチェック

・本人確認書類(免許証・マイナンバーカードなど)

・実印&印鑑証明書&権利証

 

特に売り主は、不動産の名義が自分から買い主のものに変わる、つまりは「不動産の権利を失う立場」になりますから、「本人」と「本人たる書類」を厳格に確認されます。

 

司法書士を間に挟む場合は司法書士が面談でチェックしますし、本人確認書類もしっかりと確認します。これは司法書士の職責上の理由だけでなく、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称:犯罪収益移転防止法)」などの各法令からも要求されているところです。

 

加えて、不動産を売って買い主名義に変更するには、売り主の実印・印鑑証明書および権利証が必要です。権利証は現在の所有者(=売り主)しか持っていないものですし、実印・印鑑証明書も本人しか持ちえません。

 

このように何重かのチェックを経たうえで、署名・押印をした登記書類を提供しないと、不動産は名義変更できないことになっています。

会社の場合は「勝手に代表変更→会社乗っ取り」もありうる

対して、会社登記のセキュリティはどうか。

 

冒頭で紹介したニュースでは、社団法人の理事が勝手に辞任されましたが、社団法人の理事は、株式会社に置き換えると「役員」にあたります。役員を変更するのに、役員本人の同意は必ずしも必要ではありません。本人が承諾しなくとも、株主総会(=株主会社においてすべての決定権を持つ上位機関)が決定すれば退任や解任が可能です。

 

法人や会社の理事や役員を勝手に辞めさせるには、合法・非合法含めてさまざまな方法があります。悪用される可能性もあるので具体的な解説はしませんが、手続きに印鑑証明書がいらない場合もあります。

 

ともかく会社登記は不動産に比べてセキュリティが甘く、冒頭の報道とは逆に、「代表者が知らない間に役員変更されていた」という事件も実際に起こっています。

 

他にも、以下のようなリスクがあります。

 

●会社を乗っ取られる可能性……勝手に代表取締役を変更される。

●詐欺に利用される可能性……勝手に役員を変更され、架空の会社として使われる。

●資産が不正に売却される可能性……代表者が変わると会社の資産管理も変わる。

会社登記のセキュリティが甘い理由

なぜ会社登記のセキュリティは甘いのか。理由はさまざまですが、一つには、「会社設立のハードルを下げよう」という昨今の動きが関係しています。スピーディかつ手軽にビジネスを始められる環境にすべく、会社設立に必要なコスト(登録免許税や定款認証費用など)を低減するなど、設立手続きが簡略化されていることに起因しています。

 

また、単純に「法改正が追いついていない」という理由もあります。時代に合わないルールがそのまま残っており、現代に適応できていないところがあるのです。

会社を守る3つの対策

では、セキュリティが甘いなか、どうすれば会社を守ることができるのか。

 

1つめは、登記情報を定期的にチェックすることです。登記情報はオンラインでも閲覧できます。定期的にチェックし、役員などが変わっていないかを確認しましょう。

 

2つめは、当然のことではありますが、会社実印・印鑑カードをしっかり管理することです。会社実印と印鑑カードがあれば、会社の印鑑証明書を取得できてしまいます。しっかりとした管理で不正利用を防ぎましょう。

 

3つめとして、定款(ていかん)をしっかり作成することも防御策になるでしょう。定款とは、会社や法人の基本的なルールを定めた書類で、「会社の憲法」とも呼ばれます。定款で代表者の変更を制限するルールを設けることも可能ですので、セキュリティレベル向上のために検討してもよいでしょう。

 

以上、今回は、不動産と比べて会社の登記はセキュリティが甘いということについて解説しました。経営者の方は特に注意し、定期的に登記情報を確認していただけたらと思います。本稿がご参考になりましたら幸いです。

 

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【参考】

・産経新聞オンライン 2025年3月11日掲載

『J3鹿児島ユナイテッド代表を書類送検 虚偽の登記手続き疑い 無断で印鑑を作成し押印か』(https://www.sankei.com/article/20250311-GMQOVE45T5LWLFSZV3RTBPAJZI/)

 

・鹿児島読売テレビ 2025年3月11日掲載

『鹿児島ユナイテッドFC 徳重代表が書類送検 他人名義の印鑑でうその文書作成か 刑事告発した男性は…』(https://news.ntv.co.jp/n/kyt/category/society/ky0193a3db139b4b01b57efc5679bd53d0)

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佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

1980年生まれ。大阪府泉大津市出身。高知大学理学部卒。相続の専門家として、相続へ不安を抱えるお客様や、その家族が安心して手続きに臨めるよう、単なる手続きにとどまらず、SNS等を活用した情報発信にも力を入れている。

YouTubeチャンネル『司法書士/佐伯ともや』では、相続登記を始めとするお役立ち情報の解説から、趣味の筋トレやサプリメントのこと、VLOGなど幅広く発信。

 

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