「共有者が行方不明の不動産」を売却するには?
複数人の共有名義になっている不動産(土地や建物など)を、共有不動産といいます。共有不動産は基本的に、共有者全員で手続きをしないと、不動産全体を売却することができません。
では、共有者のうち誰かが行方不明になってしまった場合、どうすればその不動産を処分できるのでしょうか?
今回は「共有者が行方不明の不動産」を売却する方法について解説します。従来の方法と、2023年4月からスタートした方法を見ていきましょう。
従来の「2つの方法」
従来では、次の2つの方法がありました。
【従来の方法①】裁判所の判決による共有物分割
1つめは、裁判所の判決による共有物分割です。裁判所に「共有物分割の訴え」を提起し、裁判所から判決を受けることで、行方不明者の持分も含めて共有物を譲ってもらうなどの手続きを取る方法です。
【従来の方法②】不在者財産管理人を選任し、共有物分割か持分の譲渡を受ける
もう1つは、行方不明の人に対して「不在者財産管理人」を選任し、その管理人と共有物分割をしたり、持分の譲渡を受けたりするなどの方法です。不在者財産管理人というのは、行方不明の人がいる場合にその人に代わって財産を管理する人で、裁判所が選任します。
ただし、「従来の方法」にはデメリットも
上記を行ってから売却に向けた手続きを進めていく…というのが従来の流れでしたが、ここにはデメリットもありました。
●手続き上の負担大
「①裁判所の判決による共有物分割」という方法では、すべての共有者を当事者として訴訟提起をしなければならないなどの手続き上の負担が大きく、判決を受けるまでが結構大変です。
●不在者財産管理人の選任が必須で、管理人への報酬等の費用負担が大きい
「②不在者財産管理人を選任し、共有物分割か持分の譲渡を受ける」という方法では、不在者財産管理人の選任が必須で、管理人への報酬等の費用負担が大きいというデメリットがあります。
多くの場合、不在者財産管理人に選任されるのは「弁護士」です。まず申し立ての段階で、予納金のような形で裁判所へ数十万円ほど渡すことになります(これは管理人の報酬等に充てられます)。もちろん弁護士も仕事ですのでタダというわけにはいきませんが、やはり結構な金額ですよね。
2023年4月から「もっとラクな方法」が登場
以上の事情から、共有者のうち誰かが行方不明になると対処が大変でした。売るに売れない、動かせない。そうこうしているうちに今度は共有者の誰かが亡くなり、共有者がさらに増えて、不動産を動かせないうちにまた所有者が不明になり…と、負の連鎖に陥ります。
この問題を解消するために民法が改正され、令和5年4月1日から2つの方法が登場しました。
(1)所在等不明共有者の持分取得(民法262条の2)
(2)所在等不明共有者の持分譲渡(民法262条の3)
それぞれどのような方法なのかを見ていきましょう。
【(1)所在等不明共有者の持分取得(民法262条の2)】
まず裁判所に対し、行方不明者の持分を取得する旨の請求を申し立てします。裁判所は、不動産鑑定士の鑑定等によって、行方不明者の持分の価格を決定します。もし1,000万円という結果になれば、その1,000万円を「供託(きょうたく)」することで行方不明者の持分を取得します。
(供託とは、簡単に言えば国の機関に金銭等を提出することです。その持分を持っている共有者が行方不明で支払先がわからないため、供託所という国の機関に1,000万円を預けておきます。後日もし行方不明の方が出てくれば、その人は預けられた1,000万円を引き出すことができます。)
行方不明者の持分を取得したことで登記手続きができるようになりますので、請求者は行方不明者の持分を請求者自身の名義に変え、売却に進むことが可能です。
【(2)所在等不明共有者の持分譲渡(民法262条の3)】
これは裁判所から、「共有者全員の持分(行方不明者の持分を含む)」を譲渡する権限を与えてもらう方法です。
たとえば共有者はAさん・Bさん・Cさんの3人ですが、Cさんは行方不明になっているとします。「A・B・Cの3人全員でこの不動産を売却したい(行方不明者の持分も含めて売却したい)」と考えた場合、裁判所に対して「行方不明の方の持分を含めて売却したいので、その権限を与えてください」と申請します。すると上記(1)のように持分の価格が決定されるので、持分価格相当の金銭を供託します。Cさんは供託所に預けられている金額を取りっぱぐれることはないので、Cさんの持分も含めて売却する準備ができるというわけです。
(2)ではここまでを経て売却をしていくことになりますが、1つ注意点があります。それは、「裁判所に権限を与えられてから2ヵ月以内」に売却しなければならないということです。この期限を過ぎると失効となりますので、のんびりしてはいられません。
「(1)持分取得」と「(2)持分譲渡」、どちらを選ぶべき?
(2)については「売却ありき」の方法ですが、(1)は行方不明者の持分を取得するための請求ですので、必ずしも売却を目的とする必要はありません。「取得して終わり」というのもアリです。
もとより売却を検討しているのであれば、(2)の方法でよいでしょう。「権限を与えられてから2ヵ月以内に売却」という点だけご注意ください。時間としては割とタイトです。
ちなみに不動産が「遺産共有」の状態にある場合は、相続開始から10年以上経過しなければ、上記(1)(2)の制度は利用不可となっています。
遺産共有とは、不動産などの相続財産が、遺産分割協議が行われないまま法定相続人の間で共有になっている状態を言います。たとえば最初の共有者がAさん・Bさんの2名だったところ、Bさんが亡くなりました。Bさんの相続人は複数名いるものの、そのなかに行方不明の人がいる…といったときなどに起こります。
「“もともと共有状態にある不動産”を売却したいが、共有者が行方不明になっている」というケースであれば上記(1)(2)の手続きを取ることができますが、「共有者の誰かが亡くなっている場合」では、10年以上経過してからでないと使えないのでご注意ください。
以上、今回は「共有者が行方不明になっている不動産」を売却する方法を紹介しました。2023年4月からこの方法が取れるようになり、共有者が行方不明の不動産は、従来よりもラクに売却手続きを進められるようになりました。共有不動産を放置すると権利関係が複雑になってしまうため、早めの対処をおすすめします。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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