(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひが発行する『N&Aニューズレター(2024/7/31号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひまたは当事務所のクライアントの見解ではありません。

2. 品質不正問題3

3 品質不正問題については、拙稿「品質不正の防止に向けて」危機管理ニューズレター2024年6月28日号もご参照ください。

 

(1)品質不正が絶えない要因

 

本来、品質不正として大問題なのは、薬害、食中毒など人の死傷につながる製品役務の不具合や、不良建築など実害が発生し得るケースです。しかし、2017年の大手製造業における品質不正事件を契機に、規格・認証の不適合や契約仕様の違反などがあれば、必ずしも実害に結びつかなくても、「品質不正」として厳しい批判を受けるようになったと思います。

 

ここでは、人の死傷や不良建築などの実害をあまり伴わない、いわばB to Bでの品質不正(検査不正、認証不正という問題も含む)を主に念頭において論じます4

 

※4 本稿に記載した原因や再発防止策は、実害がある品質不正についても当てはまるところが少なくありませんが、実害がある品質不正では、性能や安全への軽視が主な問題であり、この点にどのように対処すべきかが重要なポイントになります。他方、実害があまりないB to Bでの品質不正では、一般的には、性能や安全への軽視が問題なのではなく、むしろ、性能に問題ない等との正当化を背景にした、顧客説明や、手続軽視、契約軽視等といった点が問題になります。そのため、本文記載のとおりの限定した範囲で論じています。もちろん、実害の有無といっても、その差異は相対的なものであり、ヒヤリハットやハインリッヒの法則が指摘するとおり、性能に問題ない等の正当化による手続軽視が将来における実害のある品質不正を招来し得るという点で、連続している問題ではあります。

 

こうした品質不正は、「性能に問題がない」といった正当化が働きやすいことから、引き続き発生(厳密には「発覚」)が相次いでいます。厳しく批判されたり、不正競争防止法違反(虚偽表示)で会社や役職員個人が罰金刑で処罰される等しているにもかかわらず、今日まで続いています。

 

なお、「性能に問題がない」といっても、品質不正の発覚後、顧客からは補償や代金の一部返還等を求められることもあります。また、顧客の製造ラインで支障が生じることもあります。だから、実際問題としては、「性能に問題ない」とは必ずしも言えないのですが、問題なのは、こうした正当化が働きやすいという点にあります。

 

ア 正当化

 

品質不正が長期間にわたって続いたり、発覚しない理由のうち大きな理由は、どうしても不正に対する正当化が働きやすい、ということです。

 

例えば、顧客の要求仕様を満たさないスペックの製品を出荷したというケースでは、「性能に問題ない。顧客の要求仕様が無用にハイスペックなだけ。だから出荷しても問題ない」という正当化がよくあります。実際、性能に基本的には問題ないことも多いので、こうした正当化への対処はなかなか難しいものがあります。

 

自社の出荷基準・検査基準を満たさない製品を出荷した、というケースでも同じように、「自社の出荷基準や検査基準が高すぎる。性能に問題ないのだから、基準に未達でも、納期が逼迫していて、納期に間に合わないとお客さんに迷惑をかけてしまうから、このまま出荷した」という正当化がよくあります。製品の規格や認証では、認証の取得の際に申請した設計や材料とは違う製品を作って、認証品として出荷するパターンがあります。これまた同じような話で、「性能に問題ない。収益計画上、早く認証を取得して製品化したい」という正当化です。検査の一部省略というケースでも、「開発案件の試験や出荷段階の別の検査でカバーできているので、この検査はしなくてもよい。納期も逼迫していて、検査設備も足りないから、実質的に問題ないのだから出荷してしまおう」という話になります。

 

こうした正当化をいかに防いでいくか、あるいは正当化があったとしても、品質不正が起きないような仕組みや牽制チェックはどうしたらよいかを考えていく必要があります5

 

※5 正当化との関係では、日本企業の過剰スペック体質という問題もときどき指摘されます。いろいろな理由から、社内の出荷基準、検査基準が、お客さんと握ったスペックよりも高く設置されている場合がありますが、そこまで高い基準にする必要が本当にあるのか、という問題です。無用に高い基準に設定してあると、かえって守らなくてよい、という正当化につながります。

 

イ 手続やプロセスによる品質の証明という発想の馴染みにくさ

 

いくつかの品質不正案件で、いろいろな方のお話を実際に聞いて思うところなのですが、みなさん、自分の会社の品質やものづくりに自信があります。うちの製品は、物はいい、お客さんからも信頼されて任されている、と思っていますが、その反面として、検査やプロセスで顧客に品質を証明するという発想が馴染みにくいことがあります。契約等で要求されている検査を行って検査結果で品質を証明する、そうしたプロセスで品質を証明すると言っても、そんなことをしなくても物さえよければ大丈夫だ、という具合です。

 

専門家の方からお聞きした話ですが、この点は欧米企業と違う、日本企業の特徴だという説があるそうです。欧米、特に米国の企業はあまり従業員を信用してないから、手続やプロセスで品質を証明しないといけないという発想に馴染んでいるが、他方、日本企業は、自信があるだけに、そうした発想に乏しいのではないか、ということです。こうしたステレオタイプな特徴論が実態にどの程度合致するかは実証的な検討が必要ですが、一理はあるのかもしれません。

 

それから、ISOなどいろいろな国際規格や認証について、やや極端な言い方をしますが、ある意味で外圧的に受け止められている面もあって、例えば「外国で物を売るために必要とされてしまったから、やむなく規格を取っているが、うちの製品はそのような規格や認証よりはるかに性能はよい」、「規格や認証は外国で物を売るためのパスポート(あるいは国内で物を売るための通行手形)みたいなものにすぎない」等といった捉え方です。そうすると、製品化時期が迫ってきたり、納期の逼迫などがありますと、規格や認証を完全には充足していない場合でも、「物は規格や認証よりも優れているのだから」という正当化が生じやすくなります。

 

その意味で、検査にせよ、規格や認証にせよ、手続やプロセスで品質を証明するという発想を根付かせることは、正当化を防止するためにも必要なのだと思います。

 

ウ 設計・開発部門の重視と検査・品管部門の軽視

 

設計や開発部門が重視され、検査部門(ここでは、品質管理部門を含む趣旨で「検査部門」と言います。)が軽視されがち、という実態も一部にあるようです。極端な言い方になりますが、設計・開発の役職員の中には、ときに、品質上の問題点等について検査に話しても検査は理解できないだろう等といった意識もないではなく、設計・開発が検査を信頼していない面もあったりしますし、会社や工場等で出世するのは大概が設計・開発の人というケースも多いと思われます。

 

そうした関係性の中で、検査が顧客仕様を満たさない検査データを設計・開発に示して、スペック変更を求めても、設計・開発からは、検査方法や条件設定に問題があるのであって、設計変更は不要と突き返されたり、あるいは、設計・開発や製作の過程で手戻り等が想定を超えて発生することで工程遅延を招くと、最後の工程は検査なので、「それなら検査を省略してしまえ」等となって、品質不正という問題に至ることもあります。

 

その一方で、会社や工場によっては、設計・開発、製作、検査の間で人事異動をする等の工夫をすることで、縦割りや壁、サイロ化を取り除こうとしているところもありますが、それはそれで、今度は、お互いに各自の事情や悩みが分かるものですから、検査(特に、出荷停止権限を持つ品質管理部門)による牽制が働かなくなってしまうこともあって、実に、こうした組織間の協力と牽制という相反性のある問題は、対応に一律の正解はありません。

 

また、検査軽視という点からは、検査設備への設備投資が後回しにされがちであって、それが検査設備の質ないし量からの能力不足となって、検査省略等といった品質不正を招くこともあります。

 

エ 非コア業務や子会社・関連会社

 

品質不正に限りませんが、不祥事というのは、非コア業務や子会社・関連会社で発生することが少なくありません。非コア業務や子会社・関連会社ですと、どうしても単独業務だったり、手作業依存が大きい、担当者が長期間にわたり固定している等ということで、品質不正などの問題が、本社やコア業務に比べると、起こりやすいと思います。コンプライアンスに熱心な企業が本社で一生懸命に旗を振っても、本社から組織や人事という面で距離が離れている現場となると、なかなか、本社の思いは届かないという現実があるように思います。

 

オ 先輩や上司との仲間意識

 

品質不正問題で問題に関わっていた役職員の方をヒアリングすると、よく出てくる話なのですが、「不正だと分かっていたのに、どうして今まで声をあげなかったんですか。内部通報や内部監査などの機会もあったのに」と聞くと、多くの方が「先輩や上司もやってきたこと、先輩や上司から教わってきたことです。それなのに、自分だけが声をあげて、いい子になることはできません。先輩や上司を売ることはできません」と答えます。私なども気持ちはものすごく良く分かるところなのですが、そうは言っても、こういった点をどうにかしないと、品質不正問題の早期解明や根絶は難しいと思います。

 

カ 顧客説明の回避

 

品質不正問題について、声をあげて対応することの手間や負担、軋轢等から声をあげない、という問題もあります。品質の問題が見つかりましたとなれば、上司に説明して上司の決裁を取った上で、お客さんに説明しに行かないといけない、となります。上司は「もっと別の方法で検査すれば、仕様を達成できるんじゃないのか」などと言ってきて、もう1回検査して来いとなるかもしれません。そのほかにも上司からはいろいろな説明や資料を求められるでしょう。

 

ようやく上司をクリアしました。そしたら、次はお客さんです。品質不正がありましたと顧客に話す際の心理的な負荷を頑張って乗り越えて、顧客に説明しました。顧客からは、「その製品について性能に問題ないことは分かったけれども、他の製品はどうなんですか。過去に納品してきた製品はどうなんですか」等々と質問や資料・データの要求が相次ぎます。顧客の担当者も自分の上司に説明が必要ですから、これは当たり前のことです。

 

そんなことで、勇気を振り絞って声をあげても、上司や顧客への説明や資料作りで、心理的負荷どころか、物量的にも大きな負担を負うことになって、残業続き、休日出勤の連続となりかねません。こうした顧客や上司への説明負担の回避も、声があがらない大きな要因の1つです。

 

キ 現場では何が不正か理解されていないこと

 

品質不正の問題について、現場では何が不正か、理解されていないことがあります。従業員の方にアンケートを取ったり、ヒアリングをする時などに、「品質不正がありましたか」などと聞いても、なかなか答えは返ってきませんが、「実際のものとは違う部品や材料を使うことにしたり、あるいは実際とは違う図面で、認証を取得したことがありますか?」などと、具体的かつなるべく価値ニュートラルな聞き方で聞くと、「問題はないと思っていますが、こういうことがありました」などと答えが返ってくることがあります。

 

そのほか、質問するなら、例えば、「顧客から要求されている仕様とは異なる手順書を作成したことがありますか」、「決められている手順を省略したり、順番を変えて製作したことがありますか」、「決められている材料や部品とは異なる材料や部品を使って製作したことがありますか」、「3回の測定で合格しなかった場合には不合格にすると決められているのに、4回目の検査で合格したので、合格したと報告したことはありますか」などと聞く方がよいと思います。

 

前述した正当化という問題もありますが、そもそも、従業員の方は入社して、あるいは配属されて、先輩に教わって仕事を覚えてきているわけで、先輩から教わったやり方に従って、不正の意識とか罪悪感などはあまり抱かずに仕事をしてきたというパターンがむしろ一般的です。ですので、品質不正があったのかと質問しても出てこないのです。

 

このように、正当化も含め、現場ではあまり不正とか悪いと思ってやっていない、そのために品質不正は起きやすく、長く続きやすいのです。

 

ク その他

 

そのほか品質不正が絶えない原因としては、内部監査や品質監査等の監査機能が重視されていない、技術力・開発力不足の場合もある(規格・認証や法規制等が改正された場合に、改正内容を充足する製品をタイムリーに開発できないなど)といった点があります。

次ページ2. 品質不正問題_(2)品質不正の防止・早期発見

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○執筆者プロフィールページ
木目田 裕
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寺西 美由輝

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