離婚して子連れで実家に戻った女性は、会社員として働きながら、両親を介護し、看取りました。しかし、父親が遺した遺言できょうだいといさかいが起こり、絶縁状態に。そして今度、母親が遺した遺言を巡り、再びきょうだいとのいさかいが起こる可能性があって…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、について解説します。
「全財産は二女へ」…母が遺した遺言書、遺留分の請求は必至
佐藤さんの母親はそのような経緯から、自分が亡くなったあとの佐藤さんの生活を心配し、遺留分の支払が終わった直後、母親自身も公正証書遺言を作成しました。
遺言書の内容は「全財産は二女(佐藤さん)に相続させる」というもので、佐藤さんが遺言執行者となっています。そのため、相続人である姉や弟の協力がなくても、佐藤さんが相続登記することができます。
「私がいちばん心配しているのは、姉と弟からの再びの遺留分請求です。母の老後の生活資金を奪い取るように持って行った、2人の姿が忘れられません。今回もきっと、同じようなことをするでしょう。また何年もあの2人に振り回されるのは、耐えられません…」
遺留分とは、相続において亡くなった人にかかわる財産のうち、相続人それぞれが取得できる権利を侵害された場合、法定割合の半分まで請求できる権利のことです。
遺言者は、遺言によって共同相続人の相続分を指定したり、遺贈により相続財産を特定の者に与えたりなど、自由に行うことができます。しかし、遺言で財産の処分を無制限に認めてしまえば、相続人の生活が保障されなくなる可能性があります。そこで民法では、遺言に優先して、相続人のために残しておくべき最小限度の財産の割合を定めているのです。
ただし、遺留分の請求ができるのは、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知ったときから1年以内、または相続開始から10年経過する前に請求しなければならないとされています。
時価が高くなれば、遺留分の金額も高額に…
筆者の事務所の提携先の税理士が調査したところ、佐藤さんの母親の金融資産はごくわずかで、資産のほとんどは自宅不動産でした。半分はすでに佐藤さん名義ですが、母親の土地の持ち分の相続評価は約4,000万円です。
「自宅周辺のエリアでは、同じぐらいの広さの土地が5,000万~6,000万円ぐらいでした。これでは、路線価評価より高くなってしまいそうで…」
佐藤さんは不安そうです。
母親の生前に、借入をして建て替える・売却して住み替えるといった方法で資産を圧縮し、遺留分を減らす対策ができればよかったのですが、母親はすでに高齢であり、そのような方法を実行するのは難しい状況でした。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例