(※写真はイメージです/PIXTA)

50代の男性が亡くなり、相続が発生。しかし、過去に父親の遺産をひとりで相続した子の男性は、独身で子どももなく、相続人は90歳の母親のみです。年齢からもすぐに再びの相続発生の可能性があることから、法定相続人の立場にない、男性の妹2人は焦りますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

独身の兄の相続人は、90歳の母親ひとりきり

今回の相談者は、50代会社員の田中さんです。兄(長男)が亡くなり相続が発生したことで相談に乗ってほしいと、筆者の事務所を訪れました。

 

「亡くなった兄はまだ50代で、独身でした。生前よりずっと両親と同居していて、15年前に父親が先に亡くなったときは、家族で話し合って、母や、結婚して家を出ている私と妹は相続せず、全財産を跡取りの兄が相続していたのです」

 

田中さんの兄は、独身で子どももないため、相続人は90歳の母親ひとりです。父親から子どもに相続された財産が、母親に戻るかたちですが、高齢であることから、次の相続発生は近いと想定されます。

 

「妹と、これはちょっとまずいのではないかと話し、知り合いに相談したのですが…」

 

相続を経験している知り合いに相談したところ「母親に相続放棄してもらうほうがいいのではないか」とアドバイスされたため、母とも話し合って了承を取り、亡くなった兄と付き合いのあった税理士のもとを訪れて相談したところ、対応をしてもらえることになったのだそうです。

母親が相続放棄すると、相続権は2人の妹へ

母親が相続放棄をすると、相続の権利は兄弟姉妹に回ってきます。

 

田中さんのきょうだい構成は、亡くなった兄(長男)、田中さん(長女)、妹(二女)の3人です。したがって、兄の相続人は田中さんと妹の2人になります。

 

兄の財産は母親と同居する自宅、アパート、雑種地です。父親が亡くなった15年前は相続税の基礎控除が多く、相続税の申告はぎりぎり不要でした。しかし今回は、資産が基礎控除を上回る可能性が高く、相続税の納付が必要です。

依頼した税理士は、多忙を理由に途中離脱してしまい…

田中さんの兄は、父から引き継いだ不動産の賃貸経営をするほか、自分でも個人事業者としてビジネスをしており、その関係で、長年税理士に確定申告等を依頼していました。

 

「ところが、依頼してからほとんど進展がなく、再三にわたって状況を確認したところ、〈多忙になってしまい、これ以上対応できない〉と断られてしまいまして…」

 

筆者と提携先の税理士は、田中さんがかつて依頼していた税理士から受け取ったという作成途中の書類を見せてもらいました。

 

資産関連の調査については、親族関係、資産構成、相続税の概算、財産の一覧と分割案、税引き後の財産構成の項目等、全体像は網羅されており、相続税額として、およそ2,000万円の金額の記載がありました。

 

ところが、内容を詳しく確認したところ、貸家建付地評価や貸家評価、小規模宅地等の特例の適用などが正しくできておらず、こちらの書類の数字からは正しい税額が導けないことが判明しました。

 

書類作成のペースや記載内容から、相続関連は専門外であると推察されました。

きょうだいの相続税は2割増しだが…

そのため、筆者の会社で相続手続きを引き受けることになり、提携先の税理士が改めて計算を行ったところ、該当の評価、特例の適用などで、土地、建物の評価はおよそ半分程度になり、相続税も半分以下になるとの試算結果が出ました。

 

法定相続人ではないきょうだいの場合、相続税は2割増しになるものの、それでも当初の相続税額よりは大きく減額することになりました。幸い、金融資産も多く残っていたことから、納税資金の確保も問題なく、また、田中さんと妹との間では、すでに遺産分割についての合意が取れていたことから、その後の手続きはスムーズでした。

 

「最初はどうなるのだろうと思いましたが、無事に遺産分割と相続税の納税までたどり着いて、本当によかったです」

 

田中さんは最後の打ち合わせで、同席した妹さんともども、明るい笑顔を見せてくれました。

 

今回は、母親よりも長男が先立つという想定外の事態のなか、相続税の計算が正しく行われず、納税額の計算が実際よりもかなり高額になっていたなど、複数の問題がありました。

 

相続を経験された方なら共感していただけると思いますが、不動産、金融資産に関する書類一式を集め、確認・評価を行うのはかなり大変で、10ヵ月の納税期限はすぐに迫ってきます。時間を読み誤った結果、十分な吟味ができないまま相続手続きとなるケースも多いのです。

 

 

また、税理士は税務の専門家ではありますが、それぞれ力を発揮する得意分野があります。高度な国際税務や、企業の税務に精通していても、相続については知識も経験もないという税理士は珍しくありません。

 

相続は多くの人にとって予期せずに発生するものであり、そのような事態に直面すれば、だれしも慌ててしまいます。しかし、そのようななかにあっても、税理士を探す場合は、相続を看板に掲げているかどうか、しっかり確認するようにしましょう。相続にくわしい専門家であれば、最新の法律を把握したうえ、少しでも相談者が有利になるよう、手を尽くしてくれるはずです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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