(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの方が遺言書を作成する理由は、自身の死後に残された人々が遺産で揉めることを避けたいという思いからです。しかし、遺言書に不備があると、法的に有効と認められないことがあり、結果的に遺産を巡る争いの原因となってしまうこともあります。本稿では、80代の兄が看病をしてくれた妹へ遺産を遺そうとした遺言書の事例をもとに、弁護士の根本達矢氏が解説します。

母の相続で揉めた4人兄妹。長男が逝去し……

クリスマスも終わり、年内の仕事を片付けている途中、私、根本(弁護士)の携帯に知り合いの行政書士から電話が入りました。内容は、「私が担当している顧客の名前が書かれた遺言書があるが、その遺言書通りに遺産整理を実行するために力を貸してくれないか?」ということでした。

 

詳細を本人から直接聞く必要があると思った私は、依頼者である松井さん(仮名)の連絡先を聞き、ご自宅に伺うこととなりました。

 

そして、私は千葉県にある松井さんの家を訪れました。呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてドアが開き、そこには小柄な高齢の女性が立っていました。

 

室内に案内され、用意された座布団に座ると、「昨年亡くなった兄の遺言書に私の名前が書かれていて、これって兄の財産を全部私がもらえるってことかい?」と松井さんは早速本題について話し始めました。話を聞くと、松井さんは長男、次男、三男、松井さんの4人兄妹で、昨年春に80代の長男が亡くなったとのこと。

 

「元々兄弟の仲は悪くなかったけど、母が亡くなった時の相続で揉めてしまって……。次男と三男が希望する内容にならなかったから、二人はすっかり仲が悪くなって、私と兄さん(長男)の前に顔を見せなくなってしまったのよ」お茶をすすりながら寂しそうに話す松井さん。

 

「兄さん(長男)は亡くなる2年前くらいから病院で過ごしててね。あの人、生涯独身だったから身寄りがなくて、可哀想だから、私は亡くなるまでの間、行ける時は病院に行って看病をしてきたけど、次男と三男は一回も顔を出すことはなかったのよ。母の時の遺恨もあったから亡くなったら自分の財産は次男と三男に渡したくなくて、遺言書で私を指名したんじゃないかなと」

 

「なるほど、そうでしたか。もしよろしければ、お兄様が残された遺言書を見せていただくことはできますか?」

 

すると松井さんは「これこれ、これだよ」とダイニングテーブルの上に置いていた紙を私に渡しました。

 

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※登場人物は架空です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

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