資産家の父親の遺産をほとんど1人で相続した独身男性は、勢い勇んで不動産経営に乗り出すも、失速。高齢となった姉は、弟の現状が自分の子どもたちの将来に影を落とすとして怒りが止まりません。解決方法はあるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
「相続税は1億円です」税理士の言葉におののいたが…
当時の相続内容をまとめたものは下記のとおりです。
【15年前の家族の状況】
被相続人:父
相続人:長女60代、二女50代、長男(依頼人)50代
財産の構成:自宅、貸家、駐車場、貸宅地、空き地、生産緑地、農地、現預金、保険
山田さんの父親は、よく言えば自由人でしたが、子どもたちにはあまり関心を持っていなかったようだったといいます。先に母親が亡くなり、本来であれば子どもたちへの相続を考慮すべきところ、父親も一切の相続対策に着手しないまま、突然亡くなってしまったのです。
資産には負債はありませんでしたが、納税に使えるほどの現金はなく、近所の税理士に相談したところ、「相続税額1億円超」といわれて慌てふためき、筆者のところに山田さんきょうだいから問い合わせがあったのでした。
当初相談した税理士は、農地の扱いや相続に不慣れだったようで、あとから筆者の事務所で調査したところ、不動産にいくつも減額要素が見つかり、その結果、当初見積もられていた1億円以上という納税額から大きく下げることがでたのです。最終的に、納税資金として駐車場を1ヵ所、姉2人への代償金として山林を1ヵ所売却するだけですんだのでした。
父から相続した土地、有効活用できず「税金を取られるだけ」
山田さんは、15年の間に自分の趣味への出費や、自宅のリフォームなどで預貯金を使ってしまい、ほとんど残っていません。不動産のみで相続税を試算したところ、相続財産がおよそ1億8,000万円、相続税額が2,700万円超となっており、相続時にはいずれか財産を手放すことになります。
筆者と提携先の税理士が、山田さんに持参してもらった固定資産税の納税通知書を確認したところ、年間の固定資産税額は120万円。そのうち収入があるのは貸家6軒で月額30万円、駐車場が月額3万円で年額396万円。家賃収入の30%が固定資産税の支払いでなくなっています。貸家の修繕費、その他の土地の草刈りの費用もあり、家賃収入の手残りはわずかです。
なかでも空き地の固定資産税は年間70万円と大きく響いています。この空き地は、父親が別の土地の代替え地として取得したものの、当時から一度も活用したことがなく、ずっと空き地です。山田さんが相続してからの15年だけでも、固定資産税や草刈り代などの維持費はすでに1,000万円以上もかかっていますが、土地の収入がないため、すべて持ち出しです。つまり、正真正銘の「負動産」なのです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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