みんな仕事のために生きているわけじゃない
そして3か月ともなれば、さまざまな経験を積むことになる。女子大学生のIさんは到着してすぐに新型コロナに罹ってしまうなど、修羅場をくぐったらしい。
「最初は、ここで野垂れ死にするのか、と思いました。ちゃんと働いたこともないし、いろいろなことを一人で全部やるのも初めて。最初の家こそ留学エージェントに手配してもらっていましたが、それも1か月。あとは自分で探さないといけないし、仕事も探さないといけないし。でも、やる気さえあれば、なんとかなる、ということがわかりました。実際に、なんとかなりました(笑)。今はやっぱり楽しいことのほうが多いです」
カフェのアルバイトを希望したが、なかなか見つけられなかった。コーヒーのおいしさが世界的に評価されているオーストラリアでは、カフェは人気の仕事場だ。ネットで探すと、経験者募集がほとんど。こうなったらもう、人柄とやる気を見てもらうしかないと思った。
「履歴書を持って直接、飛び込みをしました。60店以上、行きました」
そしてローカルのカフェで、ようやくアルバイト採用が決まった。ニューサウスウェールズのガバメントの近くで、州の職員が常連の店だ。オーダーを取ったり、コーヒーを出したりしている。最低賃金での雇用だったが、今はとにかく楽しいという。
「おいしいコーヒーがタダで飲めますし、英語の勉強が仕事をしながらできる。とてもありがたいです」
来て1か月の元養護教員のUさんも、アルバイト希望はカフェ。しかし、まだ見つけられていない。英語をもっと勉強してくるべきだった、という後悔の念がある。
「絶賛、仕事探し中です。ただ、はっきりわかったのは今、世界中からワーホリの若者が来ていて、仕事が争奪戦になっていることです。サイトで募集を見つけてメールを入れても、返事も来ない。直接、履歴書を渡しに行っても連絡はない。カフェで働きたいんですが、自分の英語のレベルだと、まだまだなのかな、とも思っていて。でも、オーストラリアでできた外国人の友人からは、『大丈夫、英語ができなくても、カフェで働きな』と言われていて、今またチャレンジしているところです」
一方、元高校教員のEさんは到着1か月で、耳の変化を実感している。英語だ。
「リスニングはそんなにできないんですが、言っていることはなんとなくわかるようになってきました。以前は、速い、という感覚だったものが、耳ができてきたのかと。音にしがみつく感覚がなくなってきました」そしてこの先のプランを構想中だという。
「語学学校を終えたらシドニーから他の都市に移動しようと思っています。まだ何も決まっていないところが不安でいっぱいなんですが、それもまた楽しまないと」
元新聞記者のSさんは、自らのマインドの変化を実感し始めている。
「日本を出る前、30歳過ぎて会社も辞め、安定も、いい仕事も捨ててワーホリ? 何をやってんの? とさんざん言われたんですが、シドニーでそんなことを言われたことは一度もありません。そもそも、みんな仕事のために生きてるわけじゃないわけです。それよりも、堂々と自分の幸せというものを主張する。そうだよな、それが当たり前だよな、と思い始めています」
取材後、初めて会ったという4人は連絡先を交換していた。こうやって、あっという間に人がつながっていくのも、ワーホリならではかもしれない。
上阪 徹
ブックライター
※本記事は『安いニッポンからワーホリ!最低自給2000円の国で夢を見つけた若者たち』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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