利下げが遅い背景にある、FRBの「大失策」
現在の失業率やインフレ率は「利下げ」を正当化する
話をさらに進めると、今回の雇用統計が公表される前に「FRBによる7月利下げ」を予想していた2つの米系投資銀行は、今回の雇用統計を「堅調」と受け止め、利下げの開始時期をそれぞれ9月と11月に後ずれさせました(→大手行はすべて「9月」以降の予想です)。
本節では、最近の失業率やインフレ率の動きから、利下げの可能性を考えてみます。
[図表3]は、【オレンジ】のラインが、「米国のコアPCEインフレ率の前年差+米国の失業率の前年からの改善幅」です。ラインが上に行くほど、インフレ率が高まっている、もしくは/および、失業率は低下していることを意味します。逆もまたしかりです。
他方の、【青】のラインは、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の前年差です。ラインが上に行くほど、政策金利が引き上げられていることを意味します。逆もまたしかりです。
両者はほぼ重なっています。FRBのマンデート/責務は、2つ(3つ)あり、物価の安定と雇用の最大化(と長期金利の安定)です。インフレ率が高くなる、または/および、失業率が改善すると、引き締めを行って景気拡大を持続可能にしようと努めます。逆もまたしかりです。
ちなみに、「インフレ率の変化幅」と「失業率の改善幅」を合計せずに、個別でとってもだいたい同じ絵になります。
あらためて、[図表3]から、わかることがいくつかあるでしょう。
1.過去は、これら2つの変化とほぼ同じタイミングでの政策反応がみられた。
2.新型コロナウイルスのパンデミック後は、FRBの利上げがかなり遅かった。過去に見られない「遅さ」です。これが現下の「世界インフレ」につながった可能性があり、「大失策」といわれても不思議ではありません。
3.結果として、利上げ開始が遅れた分、(インフレが打ちあがり)利下げ開始も遅くなっており、現状の「政策金利の高め維持」は正当化されるかもしれません。
4.あるいは、別の言い方をすれば、([図表3]では、【2つのライン】の変動幅をだいたい合わせているので、現在の【オレンジ】の水準に沿って、【左軸】の政策金利の変化幅を見ると、保守的に見積もって)「もう2~3%くらい利下げが実施されていても不思議ではない」、あるいは「利下げは遠くない。やるなら2~3%程度」となるかもしれません。