“ちぐはぐ”な経済指標に投資家も困惑…米国の「適切な利下げタイミング」とは【マクロストラテジストの見解】

“ちぐはぐ”な経済指標に投資家も困惑…米国の「適切な利下げタイミング」とは【マクロストラテジストの見解】
(※写真はイメージです/PIXTA)

利下げ開始予想の“後ろ倒し”が続いています。FOMCは12日、年内の利下げ回数について「1回」であるとの見通しを示しました。フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏は利下げが遅れている理由に、新型コロナウイルス流行後のFRBの「大失策」が影響していると指摘します。筆者が考える利下げ開始の具体的な時期とその根拠について、詳しくみていきましょう。

利下げが遅い背景にある、FRBの「大失策」

現在の失業率やインフレ率は「利下げ」を正当化する

話をさらに進めると、今回の雇用統計が公表される前に「FRBによる7月利下げ」を予想していた2つの米系投資銀行は、今回の雇用統計を「堅調」と受け止め、利下げの開始時期をそれぞれ9月と11月に後ずれさせました(→大手行はすべて「9月」以降の予想です)。

 

本節では、最近の失業率やインフレ率の動きから、利下げの可能性を考えてみます。

 

[図表3]は、【オレンジ】のラインが、「米国のコアPCEインフレ率の前年差+米国の失業率の前年からの改善幅」です。ラインが上に行くほど、インフレ率が高まっている、もしくは/および、失業率は低下していることを意味します。逆もまたしかりです。

 

他方の、【青】のラインは、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の前年差です。ラインが上に行くほど、政策金利が引き上げられていることを意味します。逆もまたしかりです。

 

[図表3]「インフレ率の変化と景気の変化」と政策金利の変化
[図表3]「インフレ率の変化と景気の変化」と政策金利の変化

 

両者はほぼ重なっています。FRBのマンデート/責務は、2つ(3つ)あり、物価の安定と雇用の最大化(と長期金利の安定)です。インフレ率が高くなる、または/および、失業率が改善すると、引き締めを行って景気拡大を持続可能にしようと努めます。逆もまたしかりです。

 

ちなみに、「インフレ率の変化幅」と「失業率の改善幅」を合計せずに、個別でとってもだいたい同じ絵になります。

 

あらためて、[図表3]から、わかることがいくつかあるでしょう。

 

1.過去は、これら2つの変化とほぼ同じタイミングでの政策反応がみられた。

 

2.新型コロナウイルスのパンデミック後は、FRBの利上げがかなり遅かった。過去に見られない「遅さ」です。これが現下の「世界インフレ」につながった可能性があり、「大失策」といわれても不思議ではありません。

 

3.結果として、利上げ開始が遅れた分、(インフレが打ちあがり)利下げ開始も遅くなっており、現状の「政策金利の高め維持」は正当化されるかもしれません。

 

4.あるいは、別の言い方をすれば、([図表3]では、【2つのライン】の変動幅をだいたい合わせているので、現在の【オレンジ】の水準に沿って、【左軸】の政策金利の変化幅を見ると、保守的に見積もって)「もう2~3%くらい利下げが実施されていても不思議ではない」、あるいは「利下げは遠くない。やるなら2~3%程度」となるかもしれません。

 

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