「資産運用に関する本」が売れている
最近、本屋さんに足を運びますと、目立つところに、資産運用に関する本が山積みにされています。当たり前かもしれませんが、「売れるので、目立つ場所に置いている」のでしょう。
そうした資産運用の本には、銘柄選択を指南する本が少なくないと思います。
反対に、「時間と資産の分散が大事」といえば、それ1行で終わってしまうわけですから、本になりません(→ただし、ご存じのとおり、たった1行の主張を書籍として成立させるために、つらつらと書いてあるものがたくさんあります)。
筆者の勝手な想像ですが、銘柄選択を指南する本や雑誌が売れているということは、個人投資家のみなさまのなかには、「(時間と資産の分散投資が基本と熟知されたうえで、それでも)銘柄選択で大きなリターンを得たい」と考える方が少なくないのかなと感じます。
言い換えれば、個人投資家のみなさまのなかには、“分散”と“高いリターン”という「相反する欲求」があるのではないかと想像します。
実際、個人投資家のみなさまは日ごろ、SNSや雑誌などで、「FIRE(≒早期リタイア)達成」なるプロフィールをたくさん見ていらっしゃるでしょうから、そうした人たちの成功が、高いリターンやFIREを目指す心理に火をつけてもまったく不思議ではありません。
「FIREへの強い欲求」の背景にある、所得格差拡大の現実
FIREした人たちをみて、筆者も正直、うらやましいと思います。筆者の場合、命が続くかぎり、どこかに職場を求めて、少なくとも70歳あたりまでは働かないといけないと覚悟しています(→これが筆者の現実です)。
企業は労働者を搾取するものですし、コーポレート・ガバナンス改革や、環境や多様性などのグローバルなアジェンダの取り込みが進めば、搾取や所得格差拡大の傾向は今後、ますます強まるでしょう。
加えて、政府・財務省は財政のひっ迫を強調し続けるでしょうから、それが引き続き、消費への心理的な重石となり、なおかつ、各種の税金や社会保険料のみならず、電気料金の値上げなどの「ステルス増税」で、実質可処分所得の見通しは明るくないでしょう。
そうした感覚がまた、「FIREへの欲求」を強めるかもしれません(→加えていえば、我々がいま失いつつあるものは、「購買力」といった金銭面だけでは決してないでしょう)。