「景気後退」のサインはまだ点灯していないが…
今月の7日、5月分の米雇用統計が公表されました。
筆者は、これまで2つの「景気後退のシグナル」を提示してきました。1つは「(事業所調査に基づく)非農業部門雇用者数の前年同月比1.5%割れ」であり、もう1つは「(家計調査に基づく)失業者数の前年同月比13.6%超え」です。
5月雇用統計では、前者は「1.8%」、後者は「8.7%」で、サインは点灯していません。
特に後者は前月分が「13.95%」と、点灯サインの1歩手前であり、そこから急速に伸びが鈍化しました。伸び率だけをみると、「安全領域に戻った」ようにもみえますが、(季節調整済みでも変動が大きい家計調査の)前年同月の影響に左右されており、水準でみると、失業者数は増加基調です。
堅調?鈍化?…雇用統計が「ちぐはぐ」しているワケ
「事業所調査」にしたがえば、米労働市場は“堅調”
事業所調査によれば、非農業部門の雇用者数(被雇用者数)は前月から27万2,000人の増加となりました。また、時間当たり賃金(民間部門全体)は、前年同月比で+4.1%の伸びとなり、4月の+4.0%から伸びが加速しました。これらの数値は、米国の労働市場が堅調に拡大していることを示唆します。
「家計調査」にしたがえば、米労働市場は“鈍化”
他方で、同じ雇用統計でも、家計調査によれば、就業者は前月から40万8,000人の減少となりました。また、失業率は4.0%となり、4月の3.9%から上昇しました。失業率は徐々に上昇しており、家計調査によれば、米国の労働市場は鈍化しています。
この「ちぐはぐさ」については、たとえば、次のような見解がみられます。
■家計調査を額面どおりには受け止めない人たち
労働力人口や就業者数の水準などの家計調査の数値は振れが大きく、信頼性は必ずしも高くない(→筆者の補足:ただし、前掲図のとおり、家計調査の数値をもとに「比率」を計算した失業率の動きは、景気サイクルの転換点を探る上で(少なくともこれまでは)信頼できる指標です)。
■事業所調査を額面どおりには受け止めない人たち
事業所調査では、1人で複数の仕事を持つときはダブルカウントされる。昨今のギグ・エコノミーの拡大で、(以前にも増して)パートタイムの仕事を掛け持ちする人が増えている(→筆者の補足:実際、家計調査ではパートタイマーや外国生まれの移民労働者が増えています)。
それらの人たちの所得は高くないため、事業所調査での堅調な雇用者数は必ずしも「家計」の好調を意味しない。
総じて、米国の労働市場の強弱については「はっきりしない」と考えておくほうがよいでしょう。ただ、これまでとは違って、弱めの数値も出ているわけですから、分散投資での対応が安全策でしょう。