歴史的な円安が続くなか、大企業の経営者などによる“日銀批判”が目立ちます。しかし、実は円安の不利益のほとんどは「家計」が負っており、企業(特に大企業)は円安の恩恵をしっかり享受しているのです。では、円安によって苦しめられている個人が自らの資産を守るためにはどうすればいいのでしょうか。フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。
円安で儲かる大企業と国…苦しむ家計にも「分配」を
筆者は為替を「分配の問題」と捉えています。
円安は、世界経済の総需要を外国から日本にシフトさせます。すなわち、日本国内では生産要素の雇用が増えます。各種の調査や発表によると、本邦企業は日本国内への生産回帰を進め、外国企業は日本への直接投資を増やしています。
また足元では、企業利益と税収が増えています。
法人企業統計調査によれば、日本企業の経常利益は前年比12%増(直近4四半期)、政府一般会計の税収は同6%増です(直近決算金額)。このほかに、含み益を持つ特別会計もあります。これらは物価高に苦しむ家計に分配可能な原資と考えられます。
「失業」×「インフレ」、理想のバランスは…
長く忘れられていましたが、失業とインフレには「フィリップス曲線」というトレードオフ(反比例)の関係があります。
言い換えると、(望ましい)低い失業率には(望ましくない)高いインフレ率がつきもので、その逆もしかりです。最近でいえば、インフレ率をドル円相場の水準と置き換えてもよいかもしれません。我々家計は「いいとこどり」はできず、失業とインフレの組み合わせを選ぶ必要があります。
ただし、先ほど「分配の問題」といったように、円安とインフレを選ぶ場合には「他国から需要を奪う」分、分配できる可能性があります。他方で、円高と失業を選ぶ場合には分配の原資はなくなります。
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フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済業務および外国債券・デリバティブ等の投資・運用業務に従事。
その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。
アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年にJ.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社、2019年同社マネージング・ディレクターに就任。ストラテジストとして、個人投資家や販売会社、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。2020年8月、フィデリティ投信入社。
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