(写真はイメージです/PIXTA)

今年に入り、世界における日本のGDP(国内総生産・経済規模)の順位下落に関する二つのニュースが大きく取り上げられた。一つは実績としての「日独の逆転」、そしてもう一つは近い将来における「日印の逆転」だ。日本の「GDP順位下落」の進行は一体何がマズイのか? その問題点について、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が解説する。

3|GDP順位下落がもたらす安全保障上のリスク

三つ目の問題点としては、GDP順位下落がもたらす「安全保障上のリスクの高まり」が挙げられる。GDPが他国よりも伸び悩む場合には、相対的に税収の伸びが抑えられ、国防費(日本では防衛費)増額の余力が制約される。実際、日本の防衛費(ドル建て)は長らくGDPの1%程度であったが、2000年の時点では、455億ドルで東アジア地域において最大であった(図表9)。しかし、2023年時点でも502億ドルと小幅な伸びに留まったため、近隣諸国との対比では、中国の約1/5の規模に後退し、韓国にも肉薄されている(図表10)。この間、中国や韓国の国防費のGDP比は大きく変動していないため、大半は経済成長力の格差がもたらした結果と言える。日本は2022年末に以降5年間の防衛費増額*3を閣議決定しているが、中国の国防費が毎年7%前後の伸びを続けていることを踏まえると、金額ベースでの差はさらに拡大すると見込まれる。

 

 

 

一国の軍事力に関しては、技術力や練度、部隊の運用力、同盟国の有無なども影響するが、兵力や兵器調達に直結する国防費の多寡が重要な要素であることは言うまでもない。そして、近隣諸国との間の軍事力の差が拡大すると、力のバランスが崩れ、抑止力が低下することで武力衝突発生のリスクが高まりやすくなると考えられる。

 

以上の通り、世界における日本のGDP順位下落は、それが意味する事象(経済の長期停滞)のみならず、それがもたらす影響(外交力の低下、安全保障上のリスクの高まり)という点でも問題を内包している。今後、日本経済の成長力が底上げされることで、円建て名目GDPの増加ペースの加速と、利上げ余地の創出に伴う円安の是正によって順位の下落に歯止めが掛かることを期待したい。

 

*3:2027年度の想定は8.9億円程度で、2022年度当初予算比で1.6倍超に増加する見込み。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年5月31日に公開したレポートを転載したものです。

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