(写真はイメージです/PIXTA)

今年に入り、世界における日本のGDP(国内総生産・経済規模)の順位下落に関する二つのニュースが大きく取り上げられた。一つは実績としての「日独の逆転」、そしてもう一つは近い将来における「日印の逆転」だ。日本の「GDP順位下落」の進行は一体何がマズイのか? その問題点について、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が解説する。

2――GDP順位下落の問題点

1|GDP順位下落が示す事象

GDP順位の下落について、一つ目の問題点は順位下落が示す事象、すなわち「順位の下落が日本経済の長期にわたる停滞を示していること」だ。

 

近年の順位下落には幅広い通貨に対する円安進行の影響を強く受けているため、その影響を一旦取り除き、さらに物価変動の影響も除いた主要国の各国通貨建て実質GDPの推移を確認すると、日本の円建て実質GDPの伸びは2000年から2023年にかけて15.8%増に留まり、中国(6.2倍へ増加)、インド(4.0倍へ増加)は言うまでもなく、米国(58.7%増)、ドイツ(27.8%増)に対しても明確に下回っている(図表4)

 

「経済規模の概念であるGDPよりも、生活レベルを示す指標とも言える一人当たりGDPの方が重要」との見方も一理あるが、日米独について、各国通貨建ての一人当たり実質GDPの推移を見た場合でも、2000年以降の伸び率は日本が最も低い(図表5)。つまり、日本居住者の生活レベルの改善ペースは諸外国と比べて伸び悩んできたことを意味している。

 

 

なお、上記で影響を一旦取り除いた近年の円安についても、日本経済の停滞が影響している面がある点には留意が必要になる。

 

 

円安は特に2022年以降に急速に進んだが、その主因は内外金利差(政策金利並びに長期金利)の拡大にある(図表6)。コロナ禍における供給網の混乱やその後の経済活動再開、ロシアによるウクライナ侵攻などを受けて世界的にインフレが急進し、各国が急速な金融引き締めを進める中で、日銀が昨年まで大規模な金融緩和を維持したことが内外金利差の拡大をもたらした。日銀は今年3月にマイナス金利政策を解除したものの、内外金利差は依然大きく開いたままだ。

 

近年では日本でも高めの物価上昇が続いてきたが、「経済の長期停滞によって定着したデフレ的なノルム(社会通念)が払拭されて、物価目標の安定的な達成について日銀が確信を持てる」状況に至っていないことが、海外と比べて金融引き締めに慎重な日銀の姿勢に繋がっている。

 

従って、円安による目減り分も含めて、「日本の名目GDP(ドル建て)順位の下落は日本経済の長期にわたる停滞を示している」と捉えるのが妥当だろう。

 

2|GDP順位下落がもたらす外交力の低下

GDP順位の下落について、二つ目の問題点は順位下落がもたらす影響であり、「外交力の低下」が挙げられる。日本はかつて世界第2位の経済力を背景として、ODA(政府開発援助)など他国への資金援助を通じて外交的な影響力を行使してきた*2。しかし、GDPが他国よりも伸び悩む場合には、相対的に税収の伸びが抑えられ、資金援助増額の余力が制約される。実際、日本のODAは1989年から2000年にかけて世界最大であったが、以降は伸び悩み、直近では米国やドイツに大きく水を開けられている(図表7)

 

また、GDPが他国より伸び悩むことよって輸入のシェアが低下することも外交力の低下に繋がる。米国や中国は輸入関税の引き上げや禁輸といった通商措置を外交上の武器として多用するが、これが有効なのは両国の輸入規模が大きく、制限をかけた際に相手国経済に多大なダメージを与えることが可能なためである。また、2国間や多国間での貿易協定交渉時には、相手国にメリットを与えられる輸入規模の大きさが交渉力となる面もある。ここで主要国の実質輸入の推移を確認すると、GDPの伸び悩みを背景に日本の輸入が長期にわたって他の主要国よりも低迷している姿が浮き彫りになっている(図表8)

 

 

そして、GDP順位の下落による外交力の低下は経済領域も含めて、日本にとって有利な国際環境・ルールを作る上での難易度を高める方向に作用する。

 

*2:首相官邸ホームページ内にあるODA紹介ページにも、メリットの一つとして「日本の外交的な影響力強化」が挙げられている。

 

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年5月31日に公開したレポートを転載したものです。

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