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贈与税の特例で有名な「相続時精算課税制度」ですが、メリットとデメリットがあります。よく検討してから利用しないと、他の特例が適用できなくなるなど、損をすることもあります。そこで相続時精算課税制度の基本と、想定される利用ケース、使わない方がいい人などを解説していきます。

相続時精算課税制度のメリット・デメリット

2,500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税制度ですが、相続時精算課税制度の利用を検討するに当たり必ず押さえておきたいメリット・デメリットを解説していきます。

 

相続時精算課税制度のメリット

(1)贈与税なしで一度に2,500万円まで贈与できる

相続時精算課税制度の特徴は2,500万円の特別控除額です。通常年間110万円を超える資産を贈与すると贈与税がかかってしまいますが、相続時精算課税制度を利用すれば一時的に多額の資金を贈与したい場合に贈与税の負担を抑えることができます。

 

(2)遺産分割がしづらい財産を事前に贈与できる

住宅や土地などの不動産は遺産分割がしづらく、相続時に争いのもとになることが多々あります。遺産を分けるために不動産の処分に追い込まれるケースもあります。生前に財産を誰に譲るかを決めて実際に贈与することで、死亡した後の相続争いを未然に防ぐことができます。

 

(3)収益物件の贈与で財産の増加を防げる

賃貸アパートのような収益物件を所有していると、賃料収入が蓄積されて財産が増加します。これは、死亡時に相続税の対象となる遺産の増加を意味しています。収益物件を生前に贈与しておくことで、相続税の対象になる遺産の増加を防ぐことができます。

 

(4)将来値上がりしそうな財産を贈与すると相続税の節税になる

実際に相続が発生した時には、贈与した財産を「贈与した当時の価額」で相続財産に加算するため、贈与した後で値上がりが予想されるような財産を贈与した場合には相続税の節税になります。

 

たとえば中小企業オーナーが業績好調の自社株式を後継者である子に対して、相続時精算課税制度を使い2,500万円で贈与した場合がそれにあたります。贈与後にどんどん株価が上昇し、父死亡時に自社株式の相続税評価が1億円になっていたとしても贈与時の2,500万円で相続税を計算できます。

 

このように将来値上がりしそうな財産を贈与しておくことで相続税の節税になるケースがあります。

 

相続時精算課税制度のデメリット

(1)生前贈与した財産も相続税の対象になる

相続時精算課税制度の最大のデメリットは、生前贈与した財産も相続税の対象になるという点です。本制度を利用して贈与した財産の価額は、贈与者が死亡して相続が発生した場合に相続財産に加算して相続税を計算します。したがって、相続財産が多く相続税が課税される可能性がある場合は、相続時精算課税を使うよりは、暦年贈与を続けた方がよいこともあります。

 

この説明だけではわかりづらいかと思いますので、具体例をあげます。相続が発生した後のことも踏まえなければいけないので、下記の前提を定めます。

 

贈与額は1,000万円

相続する遺産の総額は8,000万円

法定相続人は子1人

 

相続時精算課税制度を利用するケースでは、贈与する1,000万円には贈与税がかかりませんが、相続発生後、この1,000万円は相続税の課税対象として加算する必要があります。

 

相続人は子1人であるため、「生前贈与額1,000万円+遺産総額8,000万円-基礎控除3,600万円=5,400万円」に相続税が課税されます。この場合の相続税は920万円となります(生前贈与が令和6年以降の場合は、「生前贈与額1,000万円-相続時精算課税の基礎控除110万円+遺産総額8,000万円-相続税の基礎控除3,600万円=5,290万円」に相続税が課税され、税額は887万円となります。)

 

一方、暦年贈与を利用する場合ですが、毎年100万円を10年間かけて贈与すると仮定して考えてみましょう。ここで贈与する額に贈与税はかかりません。相続が発生した場合は、「遺産総額8,000万円-基礎控除3,600万円=4,400万円」に相続税が課税されます。この場合の相続税は680万円となります。

 

この例では、相続時精算課税を利用するより、長い年月をかけて贈与をコツコツと続けた方が税負担は少なくて済むことがわかります(ただし、令和8年までに相続が発生した場合には、過去3年以内の贈与財産について、相続財産に加算した上で、相続税が課税されます。その後、段階的に加算期間が延長され、最終的には過去7年以内の贈与財産まで相続財産に加算されることになりますので、暦年課税との比較をする場合には留意する必要があります)。

 

(2)将来贈与した財産が値下がりや消滅した場合には相続税の負担が大きくなる

これは先に挙げたメリットと逆の話です。贈与した財産が相続時に価値が急落していたり消滅していたりした場合でも贈与時の価額で相続財産に上乗せされます。これにより、生前贈与しなかった場合に比べて相続税の負担が大きくなってしまいます。

 

たとえば相続時精算課税制度を使ってA社の上場株式を2,500万円で贈与したとします。相続時にA社が倒産して価値がゼロ円になっていたとしても2,500万円を相続財産に加算しなければならないのです。このため相続時精算課税制度を使って時価の変動がある財産を贈与する場合には慎重に検討することが必要です。

 

なお、相続時精算課税制度を利用して贈与した一定の土地・建物が令和6年1月1日以降に災害によって一定の被害を受けた場合は、贈与時の価額から災害で被害を受けた部分を差し引いた価額で相続財産に加算することができます。

 

(3)自宅の小規模宅地等の特例が使えない

相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、相続発生時に小規模宅地等の特例を使えないというデメリットがあります。たとえば父と同居の子が2,500万円分の自宅の土地を相続時精算課税制度により贈与を受けたとします。父死亡後にはこの2,500万円を相続財産に加算することになりますが、その際には自宅の土地の相続税評価額が8割も減額される小規模宅地等の特例の対象とはなりません。

 

相続時精算課税制度を利用していなければ、子が自宅の土地を相続した場合、小規模宅地等の特例を適用することができます。小規模宅地等の特例を利用して評価額を算出すれば、

 

2,500万円×▲80%=▲2,000万円

 

となり、2,000万円も減額できていたことがわかります。このように相続時精算課税制度によって贈与した土地については、将来相続時に小規模宅地等の特例の対象となりませんので、小規模宅地等の特例が適用できる可能性がある財産を贈与する際には注意が必要です。

 

(4)手続きやコストが増える

相続時精算課税制度を利用する場合は、納税額がなくても贈与税の申告をしなければなりません。(令和6年以降は、年間の贈与額が基礎控除額110万円以下であれば申告不要です)。また、不動産の相続では登録免許税が0.4%で済みますが、生前贈与では登録免許税は2.0%になり、不動産取得税もかかる点がデメリットとしてあげられます。

次ページ特例を利用するのに適した具体的なケース

本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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