(※画像はイメージです/PIXTA)

親から楽して不動産を受け継ぎ、大して働かなくても悠々自適な生活ができるーーそんなイメージを持たれがちな地主。しかし、その実態は大きく異なっており……。本記事では、一念発起して不動産を手放すことにした北沢家(仮名)の事例とともに、不動産売買の注意点について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

売却後に発覚したまさかの事実

北沢隆一は、とある日に不動産売却情報のチラシが投函されているのを目にした。1年ほど前に売却した不動産が6億円で販売活動されている。売却した不動産は、駅前に存することから日ごろ目にする機会が多いが、特段なんらかの手を加えているような印象もない。

 

ちょうどその翌日に、銀行の毎年の格付け見直しの為に手交していた資料(決算書・申告書)について取引銀行の行員から返却したいので時間を設けてくれないかとの連絡があったため、応諾した。

 

行員が訪ねてくると、昨年売却した不動産についていろいろとヒアリングを受けた。どうやら銀行にて、売却した不動産の登記簿謄本を取得したようであり、所有者の移動を確認すると、小早川の会社は決済日の同日にほかの不動産会社(以下「A社」)へ売却を行っていたようであった。A社は金融機関から借入を行っており、謄本の「乙区」に記載されている債権額を見ると5億円の抵当権が設定されていた。

 

済日の当日、やたら時間を要するなと感じていたが、おそらくA社から小早川の会社への売買代金にかかる着金が遅れ、その結果私のところへの振込に時間がかかっていたのだろう。

 

一連の流れを整理すると図表2のとおりである。

 

出所:筆者作成
[図表2]不動産価格推移 出所:筆者作成

 

小早川の会社は同日に社に売却することで利益を得ていたことになる。おそらく、小早川の会社は時間をかければ対象不動産を6億円程度で売却できると査定していたものの、仮に売買仲介で業務を行った場合、両手で仲介手数料が受領できたとしても「6億円×(3%×2)=3,600万円」であることから、自社購入に切り替えて転売することで「5億円-3億円=2億円」(ここから、不動産取得税や登録免許税などの費用がかかる)より大きな利益を獲得する選択をしたものと思われる。

 

思い返すとなかなか怪しかった小早川

北沢隆一は小早川の思惑や今回の取引における全体像を把握して後悔した。思い返せば最初の相談時から明らかに売却を焦っている素振りを見せていたため、足元をみられた可能性が高いし、また、不動産市況について冷静に分析することもしなかった。

 

さらには、子供たちに迷惑をかけたくないとの思いから、ろくに相談することもなく自分の判断や思い込みのみで進めてしまった。いまさらではあるが売却をなかったことにできないかと専門家らにも相談したが、取引自体は有効な手続きであり取り消すことは困難であろうとの見解であった。

 

また、不動産を現金化したことにより結果として相続税額も上がってしまった。資産を大きく変動させるような意思決定においては事前に専門家らの力を借りることが必要であったと改めて後悔した。

まとめ:不動産売買には細心の注意を払う

・納税資金の捻出にあたっては、第三者への売却以外にも金融機関からの資金調達、延納、一族の資産管理会社への売却など手法は複数ある
・家族に迷惑をかけたくないという考えは非常に尊いものであるが、大きな意思決定においては家族のほか専門家にも相談するなどして冷静に意思決定を行うべきである
・建物が古いから値段が安いというのは必ずしも当てはまらず、立地によって不動産価格は異なる(すなわち古い建物でも高く売れる可能性がある)
・地主一族の場合は不動産の購入や売却が相続税額へ大きな影響を与える可能性があることから、専門家に相談のうえ相続税のシミュレーションを事前に実施することが望ましい

 

以上のポイントを押さえることが重要である。

 

 

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

 

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

 

 

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