もしもこの先、インフレで生活資金が尽きてしまったら?
老後資金に関する最大のリスクは「長生きしている間にインフレが到来し、資金が枯渇してしまう」ことです。
長生きはいいことなのですが、老後資金にかんしてはリスクであり、備えるのは容易ではありません。「公的年金を大事にする」「元気な間は働く」「生活を見直して出費を抑える」などを試みるとよいでしょう。
インフレへの備えとしては、やはり公的年金を大事にすることが重要ですが、それに加えて、老後資金の一部をインフレに強い資産に振り向けることが大切です。老後資金を全額銀行預金で持っている人も多いようですが、銀行預金はインフレが来た時に目減りしてしまう(買えるものが減ってしまう)ので、リスク資産なのです。
株や外貨は値下がりリスクがありますが、預金もリスク資産なのであれば、いろいろなリスク資産を持っておくことで最悪の事態に陥る確率を下げることができるでしょう。しかも、株や外貨はインフレに強い資産なので、「インフレで預金が目減りして、同時に株も外貨も値下がりする」という可能性は相当低いと考えてよいでしょう。
長期投資=企業が生み出す「価値の分け前」にあずかる行為
株式投資には短期と長期があります。短期投資は株価の変動を利用して儲けようとするもので、バクチ的なものですが、長期投資は企業が生み出す価値の分け前にあずかろう、というものです。
企業は、株主と銀行から資金を調達し、労働者を雇い、材料を仕入れて製品を作り、販売します。売値と仕入れ値の差は付加価値と呼ばれ、労働者への賃金、銀行への金利、株主への配当として使われます。残りは内部留保として会社にとっておきますが、その分も株主のものです。株式会社の所有者は株主ですし、企業が解散する時には残りは株主に分配されますから。
インフレが来ると、売値も仕入れ値も上がり、賃金も上がりますが、差額の利益も増えるのが普通です。したがって、配当も増えるでしょう。内部留保も増えますから、株式の価値も上がっていくでしょう。企業が持っている資産の価値がインフレで高まることも、株式の価値を押し上げるはずです。
短期的には、インフレ抑制のために金融の引き締め(金利の引き上げ)がおこなわれて株価が下がる可能性もありますが、インフレが収束して金利が下がれば、株価は上がっていくと期待されます。
インフレに備えて「ドル」を持つ
日本がインフレになると、海外のものが安いと感じられるようになるので、輸入が増えます。そうなると、輸入代金の支払いのためにドルを購入する人が増え、ドルが値上がりするはずです。したがって、インフレに備えてドルを持っておくことは合理的なのです。
短期的にはドルの値段は上がったり下がったりしますが、長期的には「日本と米国の物価水準が概ね等しくなるレベル」に決まりますから、ドルが値下がりしても慌てずに待っていればよいでしょう。
もっとも、ドルの現金や預金を持っていると、米国がインフレになった時に老後資金が目減りしてしまいますから、米国の株(あるいは諸外国の株)で持っておく方が安心です。
実際には、外国の株を買うといっても銘柄を選ぶのは容易ではありませんから、外国株の投資信託を買うとよいでしょう。投資信託というのは、プロが大勢の投資家から資金を集めて多くの株を買い、儲かっても損してもそのまま(手数料を差し引いて)投資家に返す、というものです。
投資信託を買うタイミングも重要です。一度に多額の投資信託を買うと、運悪くその日が株価の高い日だった、ということにもなりかねません。そこで、毎月少しずつ買う「積み立て投資」がよいと筆者は考えています。
投資信託の積み立て投資であれば、値上がりする株も値下がりする株も持つことになりますし、株価が高い時も安い時も買うことになりますから、大儲けは狙えませんが、大損のリスクも小さくなります。
というわけで、老後資金は銀行預金と株式と外国株投資信託に割り振ることがリスクを避けるために重要なわけですが、どのような比率にするかは、インフレをどれだけ恐れているか、で決めればいいと思います。
筆者は今後も労働力希少(労働力不足と呼ぶ人も多い)により賃金が上がり、インフレが続くと考えていますし、南海トラフ大地震による物価の高騰リスクも恐れていますから、老後資金の多くを外国株投信に振り向けています。
老後資金を株式運用に回しているのは、儲けてリッチな老後を過ごそう、と考えているからではありません。儲けようとガツガツするとリスクを抱え込むことになりかねないからです。そうではなく、インフレ等により惨めな老後を過ごすことがないように安全策をとっている、ということなのです。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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