家族から理解を得る
坂井一信は家族全員に対して「今後の坂井家のことで話がしたい」と、みなの集まりやすい、とある日曜日の夕方に妻、長男、長女、次男に家へ来てもらうよう声をかけた。真田と里見も内容を説明するために同席することとした。
冒頭、一信から真田と里見を家族全員に紹介をした。その後、一信から会議の趣旨について説明をおこなった。
定年退職し、ここ数ヵ月承継について真剣に考え始めたこと、円滑に承継を行うために真田と里見の意見を聞きながら方向性を固めたこと、自分が父親から相続をした際になにも知らされていない状況であり大変苦労したこと、資産を承継したあとも決して楽なことはなく働きながら都度対応にあたってきたことなどを説明した。
家族の反応を見ると、当初想定していない内容であったのか一様に驚きを隠せていなかったが、徐々に話の趣旨を理解し真剣に耳を傾けていた。ここからはバトンを託された真田が、現状の資産の内容と今後の方針について説明を行った。
一信氏の意向を受けて、不動産については長男家に承継を託したいこと、その対応として法人化や養子縁組を行うこと、遺言を作成のうえ事前に承継方法については定めておくこと、などをひとつひとつ言葉の意味や内容について丁寧に説明を行った。
途中、長男や長女から言葉の意味など質問があり都度回答を行い、2時間程度かけて説明を終えた。
一信は内心、実弟との話し合いのときを思い出し長女や次男から「長男ばかり優遇されているのではないか」との意見が出ることを覚悟していた。しかし、一信がそれぞれ意見を聞いてみたところ意外な反応があった。
長女からは「お父さんが相続の対応をしているときに、とても苦労している表情をしていたことをいまでもよく覚えている。当時私は社会にでたばかりで仕事に慣れるのも一苦労していたときに、仕事と相続のこととで大変だったと思う。叔父さんの気持ちもわからなくはない。でも、わたしとしては兄に同じような苦労をさせたくないし、十分な内容だと思っている」との発言があった。
また、次男からも「近くでお父さんのことを見てきていたから、資産を維持することの苦労はよくわかっている。そもそも資産のない家に生まれたのであれば、なにももらえないのが当たり前であるし、むしろもらいすぎているくらいに感じている」との発言があった。
一信は、心底理解をしてもらえたことに感謝をしながら、また、自分としては苦労している姿を見せないでいたつもりであったが、実のところ子供たちがその姿を見て気にかけていてくれたことに感動をしていた。
最後に、この計画を実現させるために少しずつ進めていくこと、長男に対しては次期当主として承継の中心的役割として支えて欲しいこと、相続納税資金は生命保険分のみでは不足することが予想されることから、自分と同様に貯蓄を進めていってほしいことなどを説明した。
また、今後の状況についてはみなが集まるタイミングなどで共有していくことを説明して会議を終えた。
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