「退職金=ごほうび」の認識が危険な理由
サラリーマンの多くは、退職日に退職金を受け取ります。厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、勤続35年以上で退職一時金のみの場合、大卒・大学院卒なら1,822万円との数字が出ています。
多くの人は、手にしたことのない金額を手にして気分が高揚することでしょう。会社が永年勤続の褒美として多額の金をくれたので、自分へのご褒美に何か買おう、長年支えてくれた配偶者への謝礼として世界一周の豪華客船ツアーに行こう、といったことを考える人もいるでしょう。
しかし、退職金は老後資金の大切な柱のひとつですから、あまり贅沢はせず、近場の温泉旅行くらいにしておきましょう。そして、ゆったりした気分で配偶者と老後の生活設計について語り合いましょう。その際に、なぜ世界一周ではなく温泉旅行になったのか、という点もしっかり説明しましょう。
退職金を褒美ではなく、社内預金の満期だと考えるとよいかと思います。「自分の給料は、本当はもっと高かったのだが、会社が強制的に天引きして社内預金していなのだ。それが満期になって戻ってきたのだ」と考えるのです。
意思が弱くて老後資金を貯められない自分のために、会社が積み立ててくれたのだ、と考えて会社の「親心」に感謝し、これからはしっかり自分で管理するのだ、と自分に誓うのです。そうすれば、気分の高揚も抑えられますし、贅沢をしようという気分も薄れるでしょう。
「金融資産が一気に増えた!」との認識もアブナイ理由
退職金が銀行に振り込まれると、急に金融資産が増えます。そして、内訳は銀行預金ばかりになります。そうなると、「少しは株式投資でもしよう」と思うかもしれません。
筆者は、「銀行預金はインフレに弱いリスク資産だから、老後資金は株式や外貨にも振り分けるべき」だと考えているので、そのこと自体には賛成です(拙稿『恐ろしい…超高齢化・人手不足の日本〈インフレ時代〉到来は確実なのに。頭を切り替えられない人たちが被る「あまりに大きな損失」』を参照)。
しかし、株式(あるいは株式投資信託)を一度に大量に買うことはお勧めできません。あとから振り返ると「運悪く株価が高い日だった」といったことになりかねないからです。毎月一定額の投資信託を積立投資しておけば、高いときも安いときも買うことになるので、大儲けは狙えませんが、大損のリスクは格段に小さくなるのです。
注意すべきは、退職金が振り込まれたことを預金残高で把握した銀行から投資信託の勧誘が来ることです。支店長室に招かれて支店長から投資信託を勧められたら、買ってしまうかもしれませんね。気分が高揚していて、株でも買おうかと思っていたときに、支店長に頭をさげられたのですから、さらに気分が高揚して買ってしまう人もいるでしょう。
あるいは、「せっかく支店長が頭を下げてくれたのに、断っては申し訳ない」と思って買ってしまう人もいるでしょう。でも、冷静に考えてみれば、そんな気遣いは不要だと気づくでしょう。支店長が頭をさげているのは、あなたに対してではありません。あなたの退職金に対してなのですから(笑)。
退職金受領後の金融資産をイメージしよう
退職金を社内預金満期だと考えると、退職前から心の準備ができますし、実際の準備もできます。それは、投資信託の積み立て投資を積極的に行なうことです。退職金を受け取ってから一気に投資信託を購入するよりも、退職前から少しずつ積み立て投資をしておく方がリスクが少ないですから。
退職の前日には、預金がゼロで金融資産がすべて投資信託でも構いません。明日になれば、退職金が銀行に振り込まれて、バランスのいい老後資金の姿になるからです。そこに向けて、数年前から積み立て投資をしていけばいいのです。
実際には、「金融資産が投資信託に偏っていて不安だ」と思うこともあるでしょうが、そんな時は「自分は少額の投資信託と多額の社内預金を持っているのだから、これでいいのだ」と自分に言ってきかせましょう。
住宅ローンの繰上げ返済も、不要でしょう。少しでも借金を減らしたい、という気持ちはわかりますが、「借金はあるけれど、社内預金もあるから大丈夫」と考えれば、気持ちが落ち着くでしょう。低金利時代の住宅ローンですから、急いで返さなくても、退職金で返済すれば十分です。
余裕資金を住宅ローンの繰上げ返済に使ってしまうと、退職前日に金融資産が皆無で、退職日には金融資産の全額が銀行預金だ、ということになりかねません。そうなると、インフレに弱い老後資金構成となってしまいますし、それを避けようと思えば一気に多額の株や投資信託を購入することにもなりかねません。
余裕資金があるならば、住宅ローンの繰上げ返済をするのではなく、投信の積み立て投資をすればよいのです。退職日に理想的な老後資金のバランスになるように計算して、そこから逆算して積立投資の額を決めればよいでしょう。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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