遺言書で不動産を相続することになったら、相続登記を急ぐべし
遺言書で不動産を相続することになった人は、実は大至急で相続登記をしなければなりません。本稿ではその理由について解説します。事例を挙げながら説明したほうがわかりやすいと思いますので、まずは下記をご覧ください。
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【事例】
●被相続人:町田父郎
●相続人:町田一郎(長男)、町田次郎(二男)
●遺産:自宅不動産
●遺言書の内容:「父郎の全財産を長男一郎に相続させる」
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被相続人(亡くなった人)は町田父郎さん(仮名)です。父郎さんの相続人は、その長男・一郎さん、二男・次郎さんの計2人(いずれも仮名)。遺産は、父郎さん名義の自宅不動産です。
父郎さんの遺言書には、「全財産を長男・一郎に相続させる」という旨が書かれていました。
現実的には「遺留分(=遺言によっても奪うことができない、最低限の相続分)」の問題もありますが、今回の事例では「自宅不動産は一郎さんのものになった」として話を進めます。
ひと昔前までは、たとえ相続登記を放置していたとしても「遺言書があれば一安心」といえる状況がありました。しかし数年前に民法が改正され、そうはいかなくなりました。一郎さんも相続登記を急がなくてはいけません。
なぜ「遺言書あり」でも相続登記を急ぐべきなのか?
遺言書があったとしても、相続登記を先延ばしすると以下のようなリスクが生じます。
【リスク①】実は、次郎さんは法定相続分で登記できる
今回の相続人は子ども2人ですので、一郎さん、次郎さんの法定相続分はそれぞれ50%です。法定相続割合であれば、次郎さんは遺言書の内容を無視し、一郎さんの関与なしに登記手続きをすることができるのです。
登記簿上に一郎の持分50%、次郎の持分50%というように名前が記載されると、次郎さんは第三者(共有持分買取業者など)に自分の相続分を売却できるようになります。
通常、他人と共有状態にある財産の持分は値打ちがないため、かなり安い金額で買い取られることになります。しかし一方で、共有持分だけを買い取る特殊な業者もいるのです(地下鉄や電車内などで、たまに「共有持分、買い取ります」というような広告が出ているので、機会があればチェックしてみてください)。
次郎さんが自分の相続分だけを持分買取業者に売却すると、一郎さんは買取業者と共有状態になってしまいます。
【リスク②】「次郎さんの債権者」は法定相続分で登記できる
次郎さんが借金をしていたり、税金を滞納していたりした場合、次郎さんの債権者は法定相続分で登記することが可能です。相続人に代わって相続登記することを「代位登記」といいます。
相続が発生すると、債権者は即座に次郎さんの持分を差し押さえることができます。差し押さえられると一郎さんは共有状態になってしまううえに、次郎さんの分を動かせなくなってしまいます。
遺言書で一郎さんが相続することになっていても、一郎さんは買取業者や債権者に対抗できません。ひと昔であれば「あなた方が勝手に買い取ろうが差し押さえようが、この不動産の所有権は私のものなので関係ありません」と主張できましたが、現在は違います。
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【共同相続における権利の承継の対抗要件】
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
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遺言書があったとしても、先に登記をされてしまった場合、法定相続分を超える持分に関しては「真の所有者は私なので、あなた方の買取りや差押えは関係ない。無効です」とは言えないということです。
不本意な差押えや売却を防ぐには?
以上が、冒頭で述べた「遺言書で不動産を相続した人は、大至急で相続登記をしなければならない」の理由です。
前項のリスク①②の解決方法は「早く相続登記をすること」、これしかありません。
早く相続登記をするには、2つの方法があります。
【方法①】遺言書を公正証書にしておく
1つめは、公正証書の遺言にしておくことです。遺言書の保管制度を使う場合は別ですが、よくある手書きの遺言書だと裁判所の検認手続きが必要となり、時間がかかります。そうこうしている間に差し押さえられたり、売却されたりするかもしれません。公正証書にしておけばすぐに手続きができます。
【方法②】遺言執行者にプロを選任しておく
2つめは、遺言執行者としてプロを選任しておくことです。「登記」のことなら、司法書士が適任です。遺言執行者とは「遺言書の内容を実現する人」です。その役割をあらかじめ依頼しておけば、連絡すればすぐに動くことができます。相続人から委任状を提出する必要などもありません。
遺言書があっても、早めに相続登記をしなければ「安心」はできません。迅速に相続登記をするためには、上記2つを強くおすすめします。
以上、今回は「遺言書で不動産を相続した人は、大至急で相続登記をしなければならない理由」について解説しました。参考になれば幸いです。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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