自己啓発本とコーラの共通点
自己啓発関連の商品の大部分は、「自信を高めれば問題は解決する」という考え方が前提になっている。しかし、自己啓発の効果については、たしかな証拠や裏付けはほとんど存在しない。2005年、自己啓発業界を丹念に調査し、批判を加えた本が出版された。ジャーナリストのスティーヴ・サレルノが書いた『SHAM:自己啓発ブームの噓を暴く(SHAM:How the Self-Help Movement Made America Helpless)』だ。
この本によると、自己啓発関連の消費者の80%は「リピート客」だという。彼らは大量の自己啓発関連商品を購入し、消費している。この現象は、『自己愛過剰社会』の著者であるトウェンギ博士がいっていた「自己愛の増加はうつ病の増加と呼応している」という説とも一致しているといえるだろう。
自己啓発本もコカ・コーラと同じだ。中毒性があり、即席の「いい気分」を提供してくれる。そしてコーラが体によくないのと同じように、自分の気持ちにばかりこだわっているのも、長い目で見れば有害だ。「自信を持て」「自分を好きになれ」というメッセージばかりにさらされていると、自分の自信や能力に過大な期待を寄せてしまうようになる。
「自信を持て」といわれるほど、自信が持てないときの気分の落ち込みは大きくなる。自信があれば実力はついてくると思い込もうとすればするほど、自信だけではダメだったときの失望は大きいーまたは、失望を避けるために、自分の能力のなさから目を背けようとする。その結果は、悪循環だ。自分への期待が高くなりすぎ、現実に直面して落ち込み、自己啓発に救いを求め、その結果ますます自分への期待が高くなる。
「自信」と「実力」は別物だ。自信を高めたからといって、それだけで実力がつくわけではない。あなたは自信を高めたいと思っているかもしれないが、本当に必要なものは自信ではなく実力だ。自信を高めることで、実際に成功したり、能力が高まったりするのなら、自信を高めることに意味はあるだろう。しかし、自信が実力につながるという証拠はまったく存在しない。
トマス・チャモロ=プリミュージク
社会心理学者/大学教授
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授
コロンビア大学教授
マンパワーグループのチーフ・
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