不安傾向が強い人がもつ「意外な利点」
人間が「不安」の感情を抱くのは、生き残るために必要だからだ。不安を感じ、いわゆる「戦うか、それとも逃げるか」のメカニズムが発動することによって、身の安全のために注意したり、危険に対して準備したりできる。
つまり、不安とは、危険を察知したときの感情的な反応であり、不安のおかげで警戒や注意を高めることができる。
人類がまだ言葉を持たず、この感情にまだ名前が付いていなかった時代から、私たちは不安のおかげで逃げる準備や戦う準備をすることができていた。私たちの祖先にとって、身の危険が迫ったときに「逃げろ!」と教えてくれるのも、または「動くな! そこにいろ! やめろ!」と注意してくれるのも、この不安の感情だった。
自信が低い状態のときは、たいてい失敗を予測する。たとえば、大学入試や就職の面接、運転免許の試験、結婚式の乾杯のスピーチなどを控えているとき、自信がないと人は不安になる。そして不安のあまり、そのイベントから逃げ出したくなる。
人間の脳は、異臭、大きな音、変な味など、周囲に異変が起こると、本能的に反応するようにできていて、それが「不安の感情を抱く」という形になって表れる。
また、不安な気持ちから生まれる「内なる声」も、人間にとって大いに役に立つ。たとえばトラやサメとばったり出合ったとき、不安の声がなかったらいったいどうなるか想像してみよう。
当然ながら、心配性の人は、命に関わるような事故を起こす確率が低い。たとえば、イギリスで行われたこんな調査がある。
15歳の子供を1,000人以上集め、教師の証言や心理テストなどを使ってそれぞれの不安傾向を測定し、その人たちが10年後までに事故死したかどうか調べたのだ。その結果、15歳のときに不安傾向が強かった人ほど、25歳までに事故死する確率は低くなることがわかった。
また別の調査では、不安傾向の強い人ほど、HIV予防プログラムに積極的に参加するということがわかっている。不安傾向の強い人は、他にも伝染病の予防に敏感で、病気と思われるような症状が出たり、薬の副作用が出たりすると、すぐに医者に診てもらう。
また、不安傾向の強い人は、洪水の被害にあう確率も低い。自然災害に備えて普段から準備しているからだ。洪水が多い地域に住んでいる100人以上を対象に調査したところ、心配性の人だけが普段から洪水に備えているということがわかった。
女性のほうが男性より長生きなのも、この不安の持つ力で説明できる。女性は男性に比べて不安傾向が強いので、男性と同じだけ病気のリスクがあるにもかかわらず、世界のどの地域でも女性のほうが長生きだ。女性は、気になる症状があるとすぐに医者に診てもらい、過度な飲酒をせず、喫煙率が低く、違法ドラッグを摂取せず、体重の問題を抱える人も少ない。
キングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所のイサーク・マークスと、ミシガン大学医学部のランドルフ・ネッセによると、いわゆる「間違った警告」であっても、そのたびに反応するのはいいことだという。
なぜなら、間違った警告に反応するコストよりも、本物の危険を見逃してしまうコストのほうがはるかに大きいからだ。つまり、不安を感じるのは人間にとってよくあることであり、危険を避けるという意味で、思っている以上に役に立っているということだ。だからこそ、不安障害の症状を訴える人が、こんなにたくさんいるのだろう。
うつ病と不安障害は、どちらも自信が極端に低い人がかかりやすい病気であり、またどちらも特に珍しくない病気だ。たとえばアメリカでは、うつ病か不安障害の症状を訴えている人は、全体の約30%にもなる。しかも、これでもまだ控えめな数字かもしれない。
4万人以上のアメリカの学生を対象にした最近の調査によると、50%近くの学生が、病名がつくような何らかの精神的な症状を見せていたという。つまり、不安障害の患者の数は、実際に治療を受けている人の数よりもずっと多いかもしれないということだ。
不安障害とうつ病は重なる部分が多い。不安障害の症状がくり返し出た結果、もう心が対処しきれなくなり、不安と恐怖から逃れるために感情を殺してしまうのがうつ病だとも言えるだろう。
実際にうつ病と診断されるまでになると問題だが、ちょっとした気分の落ち込みや、悲観的な人生観には、実際に利点もある。
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