「もうどうしようもない」…全て終わりにしようとさえ考えた
書類の作成と並んで大変だったのは、銀行からの突然の呼び出しでした。
仕事をしていると突然電話がかかってきて「すぐに来てくれ」と呼び出されることが何度もあり、こちらの予定はお構いなしでした。ある月には取引をしている支店の支店長ではなく、本店の融資担当部長から急に電話があって「今から来てくれ」ということもありました。
当然、その日のスケジュールを動かさないといけません。銀行の本店は福岡市内にあっ て、北九州市小倉から車で1時間半ほどかかります。往復で3時間。打ち合わせの時間を 入れても4時間以上が取られます。
しかも行かないとそれで融資は終わりだったでしょうから、行かざるを得ませんでした。 ただ、呼び出しがあるのは状況としてはまだマシなほうです。「融資担当部長が会って くれる=お金を出す意思はある」ということでしたから、行くだけの価値はありました。
最も参ったのは、あるとき支店長から「もうこれ以上は出せません」と言われたときで した。要するに最後通牒です。借金を返済し始めて5~6年が経った頃で、しかも支払い期日まで2週間もないようなタイミングでした。
もう出さないということは「九昭は潰れる」ということです。元金がなかなか返済できず、まだ4億円くらいは借金が残っていたと記憶しています。 銀行としてはこれ以上の融資が膨らむくらいならいっそのこと潰して、会社の土地を処分して1~2億円でも回収しようと判断したのかもしれません。
正直、このときばかりは降参でした。必要だったお金はわずか1,000万円程でした。「もうどうしようもない……」と途方に暮れ、何もかもすべて終わりにしようとさえ考えました。しかし、 私には死ぬ勇気がありませんでした。私が死んでも借金は残ります。妻や子供もいましたし、会社には社員たちがいました。私が死ねば全員が路頭に迷うことになります。
こんな言い方をしては何ですが“たった1,000万円”のために自殺を考えるほど追い込まれていました。
2013年に大ヒットしたドラマ『半沢直樹』の主人公・半沢直樹は超零細町工場の息子として生まれました。高い技術を持つ町工場でしたが取引先の倒産によって経営が傾き、取引銀行の融資課長に雨の中で土下座をしたのに融資を断られ、半沢直樹の父親は追い詰められて自殺をしてしまいます。まさに、これと同じ心境でした。
進退きわまった私は、本来ならばやらないことですが、友人や取引先の社長たちを回って、頭を下げて1,000万円を都合しました。おかげで何とか生き延びることができました。本当に感謝しています。
現在でも、中小企業の社長が経営難を苦に自殺をしたニュースを見ると、その気持ちが痛いほどよくわかります。『半沢直樹』が放映されていた当時も、共感しながら観ていたことを思い出します。
(株)九昭ホールディングス代表取締役
池上 秀一
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