(※写真はイメージです/PIXTA)

経済は「経世済民」の略語で「世をおさめて民をすくう」という意味があります。しかし、実際の経済で重視されるのは「GDP」などの点数指標ばかりで、本来の意味からはかけ離れていると感じる人も多いのではないでしょうか。本記事では、お金の向こう研究所の代表を務める田内学氏の著書『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)から一部抜粋します。経済の「本来の目的」とGDPの関係性について考えてみましょう。

経世済民という「優しい経済」

「そうやったんか……きっと素敵なお母さんやったんやな」

 

柔らかい眼差しとともに、ふたたびボスが優しく声をかけた。

 

その言葉が後押しになったのか、何かスイッチでも入ったかのように、七海はしんみりと語り始めた。

 

「私にとって、母が唯一の頼りでした。その母が亡くなって、膝が崩れるというか、足元が地面ごと崩れちゃったんですよね。もう一度立ち上がろうと思ったら、今度は、確実なもの、消えないものを支えにしたいって思って。それがお金だったり、自分が仕事に打ち込むことだったり。だけど、それだけでいいのかなとも思ったりして……」

 

ボスは何度も「そうか、そうか」と優しくうなずきながら、聞いていた。

 

優斗はそのやりとりを黙って見守るしかなかった。七海の抱える心の痛みをどこまで理解できたかはわからないが、彼女の言葉は心に染み込んできた。

 

「ごめんなさい。とりとめのない話をしちゃいましたね」

 

七海は両手を顔にあてて、そのまま髪をかきあげると、息をゆっくりと吐いた。

 

ふたたびフォークを手にして、

 

「このケーキ、おいしいですよね」

 

と笑ってみせた。そして、残りのシフォンケーキを素早く口に運んで、また隙のない顔へと戻っていった。

 

ボスが後ろの棚から厚紙を1枚取り出す。

 

そして、万年筆で「経世済民」と大きく書いた。

 

「これで、けいせいさいみん、と読む。世をおさめて民をすくう、という意味や。経済は経世済民の略語や。本来、経済はみんなが協力して働いてみんなが幸せになることなんや。その腕時計にしても、多くの人が働いて作ってくれたおかげで、七海さんのお母さんが幸せになった。その幸せを今度は七海さんが受け継いでいるわけや」

 

腕時計を見つめていた七海が顔をあげる。

 

「そう言われると、経済は優しくあってほしいと思います。ですけど、実際の経済はGDPを増やすことばかり考えていて、そんなに優しくない気がするんですよね」

 

ボスの「ふむ」というあいづちを待ってから、七海は話を続けた。

 

「この腕時計は、私にとってはもちろん大切なもので、ずっと使い続けたいと思っています。でも、それだとGDPは増えないです。経済のためには、この時計が壊れて、早く新しい時計を買い替えたほうがいいわけですよね。人の感情を無視しているようで、なんだか冷たい世界に思えてしまいます……」

 

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きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」

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田内 学

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