今回は、前回に引き続き、「事業承継or廃業の判断基準②事業に収益性があるか」について説明します。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。

赤字の原因を把握し、改善可能かどうかを検討

事業承継or廃業の判断基準

②事業に収益性があるか(続き)

 

3.過年度の損益の原因を分析する

また、過去の損益計算書を、何年かさかのぼって分析して、過去に計上された損益の原因を分析することが重要です。

 

過年度に赤字を計上している場合は、赤字に陥った原因を把握し、将来においてその原因を改善できるかどうかを検討します。

 

例えば、①少子高齢化や大企業の市場への進出、取引先の生産部門の海外移転などの社会構造の変化により、売上が減少して赤字を計上している場合があります。また、②多額の借入によって、事業用資産を購入し、その減価償却費や、金利負担が過重で赤字の原因になっている場合もあります。

 

これらの要因は、主に営業損失や経常損失として計上され、赤字を計上する継続的な要素となります。したがって、何らかの抜本的な改善策によりその要素を解消、改善する必要があります。

 

例えば、①の場合は、事業構造を改革して、現在の社会で必要とされる商品やサービスを提供することにより、売上を維持、増大させることができるのかということを検討します。

 

また、②の場合は、その事業用資産を売却して借入金を返済すれば、減価償却費や金利負担を解消して、黒字化は可能なのかということを検討します。

 

他方、例えば、赤字の原因が、販売先の倒産による多額の貸倒れや、資産運用の失敗による損失計上、地震による設備の損傷等である場合があります。このような場合は、特別損失として計上される一時的な要素となります。したがって、その一時的な苦境さえ何とか乗り切ることができれば、事業継続して業績が改善される可能性があります。

 

また反対に、過年度に黒字計上している場合も同様であり、黒字となった原因を分析し、それを将来にわたっても維持できるかを検討します。例えば、過去の黒字が、得意先の新製品発売に関連した部品の大量納品という一過性のものであった場合、そのような特需が今後も見込まれるのかということを分析します。

会社の今後は事業の「将来性」で判断

4.将来の事業計画の作成

そして、過年度の損益の分析を踏まえて、将来の事業計画、資金繰り予定表を作成します。

 

事業計画においては、業界全体のマクロ的な要素、会社独自の要素を勘案して整理し、これらについて一定の前提条件を仮定した上で、定性的内容を立案します。そして、これを元に定量的な数値目標を作成して、将来の事業計画とします。

 

また、過去の損益計算書の分析や将来の事業計画を作成の際には、会社全体の損益だけでなく、事業部門ごとに分けて数値を細分化して分析する必要があります。黒字部門と赤字部門の分別、把握ができ、それによって事業部門ごとに取るべき対応策が検討できるようになります。

 

5.事業の収益性を判断する

そして、収益性について、これまでの実績を把握して今後の予測を行い、事業について承継させうるだけの将来性があるかを判断します。

 

このような分析の結果、仮に現在赤字であっても、将来黒字化の見込みがあれば、事業の将来性はあるということになります。他方、仮に現在黒字であっても、今後は赤字化が強く見込まれるということであれば、事業承継ではなく、廃業も選択肢となります。

本連載は、2015年1月20日刊行の書籍『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

松村 正哲,小宮 孝之,荒井 邦彦

ウェッジ

昨今では社長の高齢化や、産業構造の転換による苦しい経営に悩む中小企業が増えています。それゆえ事業承継、M&A、廃業の準備を進めることが、日本全体の重要課題といえましょう。 しかし、そのような中小企業の悩みに応える話…

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