今回は、事業承継の成否を判断する「事業規模、収益性」について見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。

「年商1億円」を下回ると買い手が付きにくい

事業承継or廃業の判断基準

①事業規模が一定度以上、大きいか

 

1.社外の第三者へ事業承継させる場合

一般に、ある程度以上の事業規模がないと、事業を第三者に承継させることは困難になります。

 

どの程度の事業規模が必要かという点については、企業の業種や、立地、顧客、従業員の質、資産負債、損益の状況等、複数のファクターが絡み合いますので、一概には言えません。ただ実務的には、年商が1億円を下回ると買い手が付きにくくなります。

 

2.親族に事業承継させる場合

自営業者や、会社であっても事業規模がとても小さい場合、たとえ事業の収益性は確保できており、現在は事業継続に支障はない状態でも、結局のところ、経営者個人の生業という面が強くなります。

 

そうなると、親族から後継者を探す場合でも、現在、その事業に従事していない場合は、事業として引き継ぐ必要性や魅力を欠くということになりかねません。職種や価値観が多様化した現代では、家業は親族が継ぐ、というのが当たり前ではなくなってきているのです。

 

そのような場合は、後継者が確保できず、経営者である自分が引退した場合は、事業を廃業せざるを得ない可能性があります。

 

もっとも、現在、既にその事業に従事している親族や、社内の役員や従業員の中には、個人の生業としてその事業を承継し、自分の生業にしたい、という者がいるかもしれません。したがって、事業規模が小さくて、第三者や外部者への事業承継が困難な場合は、社内の親族、役員や従業員への事業承継を検討すべき場合が多くなります。

事業に収益性がなければ廃業へ

事業承継or廃業の判断基準

②事業に収益性があるか

 

事業に収益性がなければ、今後事業を継続すると損失を拡大することになりますから、事業承継は困難となり、廃業すべきということになります。事業の収益性は、過年度の損益計算書を分析し、それを踏まえて将来の事業計画を作成して判断します。

 

1.決算書で、経営状態を把握しておくことが重要

中小企業では、社長や経営陣が、目先の資金繰りを押さえることに精一杯で、自社の決算書の内容については把握していない会社が多くあります。

 

しかし、貸借対照表や損益計算書等の決算書は、企業の経営状態を端的に示しているバロメーターです。健康診断の検査結果のようなものです。

 

貸借対照表や損益計算書で会社の財務内容や損益の状況を把握しなくても、目先の取引や資金繰りを回すことはできます。しかし、これに追われてばかりいると、日々の取引は回っており、資金繰りも確保できていたのに、いつの間にか気づかぬうちに赤字が積み上がり、資産を食いつぶした結果、資金が枯渇して、資金ショートにより倒産、という最悪の事態になりかねません。

 

したがって、企業運営において、社長が、決算書について顧問の会計士や税理士任せにせず、自らがその内容を十分に把握しておくということはとても重要なことです。

 

2.過年度の決算の実態ベースへの置き換え

まず、過年度の損益計算書について、実態ベースに置き換える必要があります。

 

自社の経営状態の分析は会社の実力を把握するために行うものです。したがって、過年度において、税務対策や収益を黒字化するための決算対策等で利益調整をしていた場合や、仮に粉飾等がある場合は、これを実態に戻して修正します。

 

例えば、黒字化のため、減価償却費を計上していなかったり、架空の売り上げを計上しているような場合は、実態ベースへ修正する必要があります。

本連載は、2015年1月20日刊行の書籍『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

松村 正哲,小宮 孝之,荒井 邦彦

ウェッジ

昨今では社長の高齢化や、産業構造の転換による苦しい経営に悩む中小企業が増えています。それゆえ事業承継、M&A、廃業の準備を進めることが、日本全体の重要課題といえましょう。 しかし、そのような中小企業の悩みに応える話…

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