前回から、業績が悪化した場合について考えています。今回も、資金ショートが見込まれる場合の対応などについて見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。

金融機関なら支払猶予の可能性もあるが・・・

前回からの続きで、資金繰りが苦しくなった場合を見ていきます。

 

4 金融機関への支払猶予要請は比較的簡単にできる

資金繰りが苦しい場合、金融機関からの借入金については、支払猶予を要請することにより、少なくとも事実上は支払を先延ばしにすることが可能です。前述の通り、金融円滑化法は既に失効しているものの、失効後も、金融機関は、貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるものとされています。

 

なお、支払猶予要請をした事実が、金融機関から漏れて信用不安が生じないかが心配になるかもしれませんが、通常はその心配は必要ありません。そもそも、金融機関は顧客である貸付先の状況について、一定の守秘義務を負っていると考えられます。また、金融機関自身の利害としても、そのような貸付先の支払能力に関わる情報が世間に暴露されることによって、信用不安が生じ、自行の貸付金の回収可能性についてリスクが生じますので、社外への情報漏洩は自らに不利益な行為となりかねません。実務上も、金融機関への支払猶予要請が、業界他社へ情報漏れして信用不安が生じるケースはほとんど見受けられません。

 

5 取引先への支払猶予要請は難しい

他方、金融機関と異なり、取引先への未払金、買掛金の支払猶予要請については、慎重に検討する必要があります。

 

取引先へこのような要請をした場合、業界他社にあっという間に情報が伝播するのが通常です。したがって、取引先への支払猶予要請は、信用不安を招きかねませんので、最後の手段として、熟慮が必要です。

資金ショートとなる日より前もって法的倒産の準備を

6 資金ショートが見込まれるときは、廃業はできず、倒産となる

以上の事情を総合的に検討して、資金繰りの見込みを判断します。

 

その上で、種々の資金繰り確保のための対策を講じたとしても、資金ショートの可能性が高い場合は、廃業はできず、倒産にならざるをえないことになります。

 

資金ショートを起こした場合、すぐにその情報が業界に伝わって債権者が殺到し、「自分の債権だけ先に支払え」との強い申入れを受けることとなって、取り付け騒ぎが起こるのが通常です。

 

そのため、資金ショートとなる日かそれより前の日を、法的倒産手続の申立てをするXデーと定めて、その日にあわせて申立ての事前準備を始める必要があります。

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    本連載は、2015年1月20日刊行の書籍『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

    よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

    松村 正哲,小宮 孝之,荒井 邦彦

    ウェッジ

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