前回は、資金繰りが厳しくなった場合には廃業ではなく倒産になってしまうことをお伝えしました。今回は、廃業に向けた流れについて見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。

清算をして資産超過でなければ廃業に支障

廃業できるか、倒産せざるを得ないかを判断するためには、資金繰り表の他に、清算貸借対照表を作成する必要があります。

 

清算貸借対照表とは、仮に会社が清算となった場合を前提として、資産負債を評価替えして作成する貸借対照表です。

 

会社が、清算貸借対照表上で、資産超過になっているのであれば、会社を清算するに際して、企業の債務を全て返済することができますので、問題なく清算手続を結了することができます。

 

他方、仮に資金繰りが確保できていたとしても、会社が債務超過となっているときは、実際に清算をする際、そのままでは債務を全て返済できないため、廃業に支障が生じる可能性があります。

資産負債を「清算価格」で評価した清算貸借対照表

実態貸借対照表と清算貸借対照表は、会社の現状を把握するために、貸借対照表を一定の評価額に置き換えて作成するという点では共通しています。

 

清算貸借対照表の作成に際しても、実態貸借対照表と同様、過年度において決算調整等をしている場合はこれを実態に置き換える必要があります。

 

また、可能な範囲で直近の数値にアップデートして置き換える必要があります。

 

もっとも、実態貸借対照表は、事業の継続を前提としていますが、清算貸借対照表は会社の清算を前提としている点で異なり、そのため、資産、負債の評価基準について差異が生じます。実態貸借対照表では、資産負債を時価で評価しますが、清算貸借対照表においては、資産負債を清算価格で評価します。

 

その評価基準については、確定的な定めがあるわけではありません。作成に当たっては、会社の清算を前提としつつ、企業の清算価値を把握するという目的に沿うように、資産負債について適切に清算価値への評価替えを行います。

所有する不動産や株式を売却見込額で算定

基本的な手法としては、資産について、会社の清算を前提とした場合の実際の回収、換価可能額に置き換えます。

 

例えば、売掛金等の債権は相手先の資力等も勘案して、回収可能額で評価します。更に、当方の清算、事業廃止により、取引先等に損害が生じる場合、損害賠償を請求されて、売掛金等について全額の支払いがなされない可能性もあります。したがって、このような点も考慮して、回収可能額を評価します。

 

不動産は鑑定(簡易鑑定)や市場価格による時価を元に実際の売却見込額を算定します。更に、工場等については、売却に際して建物を取り壊す必要があると見込まれる場合は、その撤去費用等を売却見込額から控除します。

 

取引先の株式や子会社株式については、簿価としては出資した金額が計上されています。しかし、取引先の株式は、実際の売却見込額で評価します。また、子会社も親会社と一緒に清算するような場合は、子会社についても清算貸借対照表を作成した上で、その純資産価格で評価します。

本連載は、2015年1月20日刊行の書籍『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

松村 正哲,小宮 孝之,荒井 邦彦

ウェッジ

昨今では社長の高齢化や、産業構造の転換による苦しい経営に悩む中小企業が増えています。それゆえ事業承継、M&A、廃業の準備を進めることが、日本全体の重要課題といえましょう。 しかし、そのような中小企業の悩みに応える話…

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