11月の景気ウォッチャー調査 ~大きな変動要因はなく、景況感の悪化要因は「物価高」。インバウンドは引き続き下支え要因に【エコノミストが解説】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2023年12月11日)

11月の景気ウォッチャー調査 ~大きな変動要因はなく、景況感の悪化要因は「物価高」。インバウンドは引き続き下支え要因に【エコノミストが解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

多くの国民が注目する「身近なデータ」が、実は景気や株価と深い関係にあることをご存じでしょうか。今回は、景気の予告信号灯として「11月の『景気ウォッチャー調査』」を取り上げます。※本記事は宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト)の『note』を転載・再編集したものです。

現状判断DI(季節調整値)

~11月の現状判断DI(季節調整値)49.5で前月比横這い、3ヵ月連続で景気判断の分岐点50をやや下回る。引き続き、回復傾向に一服感。

 

11月の『景気ウォッチャー調査』では、現状判断DI(季節調整値)は49.5と前月と同水準になり、3ヵ月連続で景気判断の分岐点50をやや下回りました。現状判断DIが変わらなかったことでもわかるように、11月では大きな変動要因は生じなかったようです。

 

家計動向関連DIは、家計動向関連DIは、サービス関連が低下したものの、小売関連等が上昇したことから0.6ポイント上昇し50.1と3ヵ月ぶりに50超になりました。企業動向関連DIは、製造業、非製造業とも前月から低下したため、前月から1.0ポイント低下し48.0になりました。雇用関連DIは前月から1.7ポイント低下し48.7と22年1月の48.2以来の50割れになりました。また、11月の先行き判断DI(季節調整値)は前月差1.0ポイント上昇の49.4となりました。

 

[図表1]景気ウォッチャー調査 現状判断DI(方向性)季節調整値と日経平均株価の推移

 

内閣府は、『景気ウォッチャー調査』の現状判断を5月から8月までは「緩やかに回復している」としてきましたが、9月で「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」に、22年7月以来14ヵ月ぶりに下方修正しました。但し、先行きの判断は「先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」に据え置きでした。

 

11月の調査結果に示された景気ウォッチャーの見方は、「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」と、10月に続き9月と同じ判断になりました。

「新型コロナウイルス」関連判断DI

~現状も先行きも景気判断の分岐点50を上回るが、コメント数は低下、先行き判断で2ヵ月連続2ケタ、景況感への影響力は小さく。

 

11月の『景気ウォッチャー調査』で、「新型コロナウイルス」関連判断は、現状判断で61人がコメントしDIを作ると64.5と景気判断の分岐点50を上回る水準です。先行き判断で「新型コロナウイルス」関連のコメントは75人で、関連DIは58.1になりました。

 

[図表2]新型コロナウイルス関連判断DIの推移

 

コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントし、DIが50を大きく下回っていましたが、先行き判断のコメント数が23年10月に初めて83名と2ケタに低下し、11月で75名とさらに少なくなりました。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなってきています。

 

[図表3]新型コロナウイルス・先行き判断コメント数

「価格or物価」関連判断DI

~現状も先行きも景気判断の分岐点50を下回り、引き続き景況感の足を引っ張る。

 

11月の『景気ウォッチャー調査』で、景況感の足を引っ張った悪材料として目を引くのは10月に続き「価格or物価」関連の判断です。現状判断で213人がコメントしDIを作ると43.5で、242人がコメントし43.9だった10月から0.4ポイント低下しました。景気判断の分岐点50を下回る水準が続いています。先行き判断で「価格or物価」関連のコメントは318人で、関連DIは42.8です。こちらは352人で、関連DIは42.4だった10月から0.4ポイント改善しましたが、景気判断の分岐点50を下回っています。ロシアのウクライナ侵攻で国際商品市況が急騰した22年の「価格or物価」関連DIの水準よりは上昇しているものの、総じてみると、「価格or物価」関連は景気ウォッチャーが景況感にマイナスの影響を与えている項目と考えられます。

 

[図表4]「価格or物価」関連判断DIの推移

「外国人orインバウンド」関連DI

~現状判断DIは60台が継続、先行き判断DIの2ヵ月ぶりに50超に戻る

 

11月の『景気ウォッチャー調査』で、「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは64.5と景気判断の分岐点50を上回る水準で、10月の62.0から上昇、22年9月以降15ヵ月連続して60台or70台の高水準で推移しています。

 

一方、先行き判断で「外国人orインバウンド」関連DIは58.1です。49.9と22年4月の46.9以来18ヵ月ぶりの50割れになった10月から8.2ポイントと大きく改善しました。

 

[図表5]外国人orインバウンド関連DIの推移

 

なお、「外国人orインバウンド」関連のコメント数は、新型コロナウイルスが流行していて外国人の入国が規制されていた時期は極めて少ない状況で、外国人orインバウンド」関連のコメント数は、21年9月・10月は1人だけでした。23年6月から11月の6ヵ月は70人台・80人台の高水準で、その景況感に与える影響が大きいことがわかります。

 

[図表6]外国人orインバウンド関連・現状判断コメント数の推移

海外の戦争を考慮したコメントはなし

~11月では現状判断で「中東 or イスラエル」「ウクライナ」、「ロシア」関連のコメントなくなる。先行き判断DIは、景気判断の分岐点50を大きく下回る水準に。

 

11月の現状判断で「ウクライナ」、「ロシア」、さらに「中東」「ハマス」イスラエル」という言葉を使ったコメントはありませんでした。景気ウォッチャーの、日本の現状の景気に、海外の戦争を考慮したコメントはありませんでした。

 

11月の先行き判断DIは、ウクライナ」、「ロシア」、「中東 or イスラエル」関連は各々、54.5、50.0、50.0と景気判断の分岐点程度の水準で、景況感の中立要因になっています。

 

なお、「中国」関連DIは現状判断DI56.3、先行き判断DI59.4と、インバウンドに対する期待から50超になっています。

「政治」「減税」などには厳しい目

~「政治」「減税」など、11月調査・先行き関連判断DIからわかる、景気ウォッチャーの厳しい見方

 

「政治」「減税」などへの11月の先行き関連判断DIからみると、10月に続いて景気ウォッチャーの厳しい判断が感じられます。

 

3名がコメントした「政治」先行き関連判断DIは41.7になりました。9名がコメントした「増税」先行き関連判断DIは30.6で、「増税」なので低い水準になるのはわかります。しかし、通常は景況感のプラスに作用するはずの「減税」にコメントした14人の判断から作成した「減税」先行き関連判断DIは44.6で、10月の45.1をやや下回ってしまいました。「減税」の期待される効果が、景気ウォッチャーに届いていない状況であることがわかります。

 

「金利」関連先行き判断DIは37.5と景気判断の分岐点50を大きく下回りました。

 

なお、前回10月の景気ウォッチャー調査の調査期間で、日本シリーズ第4戦から第7戦の情報が反映されず、38年ぶりの阪神タイガース日本一は、11月調査に反映されましたが、調査期間が日本一からだいぶ経ってからなので、日本シリーズや日本一に関するコメントはなく、6人がコメントした「在阪球団優勝」関連現状判断DIが54.2にとどまりました。先行き判断での「在阪球団優勝」のコメントはありませんでした。

 

[図表7]景気ウォッチャー調査(2023年11月)主な要因別DI

 

 

 

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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