「今年の漢字」は景気局面や経済状況を反映する傾向がある
~2023年「今年の漢字」は「税」。2014年にも選ばれていた漢字
日本漢字能力検定協会は12月12日(土曜日・日曜日に当たるときはズレます)に毎年、その年1年の世相を表す「今年の漢字」を発表しています。一般の人がはがきやインターネットなどで投票し、多く票を集めた漢字一文字が選ばれる仕組みです。「今年の漢字」はそのときどきの景気局面や経済状況を反映する傾向があります。金融不況のような景気の悪い年は「倒」「毒」などの暗い意味の漢字が、景気が良く明るいムードが社会に満ちている年は、「愛」「安」などの明るい意味の漢字が選ばれる傾向にあります。
23年の「今年の漢字」に「税」が選ばれました。清水寺で揮毫された森清範貫主は「国民の厳しい目線、日本の置かれた厳しい情勢を改めて感じた」「税の使い道を、国民がしっかり見ている。そういう思いで揮毫させていただいた。世の中を良くする、国民を幸せにする税であってほしいと思う」「来年は、同じ『のぎへん』でも、みんながなごむ『和』を書きたいですね」と話しました。
日本漢字能力検定協会のHPによると、「税」が選ばれた理由は
「◆一年を通して増『税』議論が活発に行われた防衛力強化に必要な財源を賄うため、法人『税』、所得『税」、たばこ『税』の3つの『税』目での増『税』に関する議論が行われた。賛否両論がある中、増『税』されるのではないかと多くの国民が不安に感じた。
◆所得『税』・住民『税』の『4万円の定額減「税」』が話題に過去2年間の『税』収増の還元として、岸田首相から、所得『税」と住民『税』の定額減『税』が実施されることが示された。あわせて行われる低所得者世帯への支援や所得制限の有無など、国民が関心を寄せる検討・議論が多くなされた。
◆インボイス制度やふるさと納『税』など、多岐に渡る『税』にまつわる話題が取り沙汰されたインボイス制度や、ふるさと納『税』のルール厳格化、酒『税』改正、新NISAなど、今年は様々な『税』にまつわる改正や検討がなされ、一年を通じて『税』に関する様々な話題が続いた」
というものでした。
~2023年と2014年は「景気は拡張局面だが、パッとしない」状況が類似
「税」が選ばれるのは消費税が5%から8%に引き上げられた14年に続き二度目です。当時は、結果的に景気は拡張局面でしたが、一部に景気後退説も流れたパッとしない年でした。23年も景気は拡張局面にはなっているものの、実質賃金・前年同月比は10月まで19ヵ月連続マイナス継続、実質GDPでも個人消費と設備投資が4~6月期と7~9月期と2四半期連続で前期比マイナスになるなど、7~9月期・法人企業統計で経常利益が過去最高となっているにもかかわらず、もたついている指標が多くパッとしない状況は、9年前と似ているようです。
阪神が“アレ”するも、2023年「今年の漢字」での「虎」は4位
~岡田監督は05年のリベンジならず。「新語・流行語大賞」で38年ぶりの年間大賞を取るも、20年ぶりの「今年の漢字」は逃す
03年の「今年の漢字」は「虎」でした。星野監督時代で、18年ぶりのセ・リーグ優勝したことが大きな理由でした。その2年後、岡田監督がセ・リーグ優勝した05年は、愛・地球博の開催や紀宮様のご結婚などで「愛」が選ばれ、「虎」は選ばれませんでした。
23年の「新語・流行語大賞」の年間大賞には「アレ(A. R. E.)」が選ばれ、阪神の岡田彰布監督が表彰されました。「今年の漢字」は95年からですが、「新語・流行語大賞」は84年に始まりました。当時は、新語部門と流行語部門に分かれていて、それぞれ金賞を筆頭として各賞が選ばれました。91年からは年間大賞が設けられ、94年からは両部門を合わせて年間大賞が選定されるようになりました。
阪神が初めて日本一になった85年では流行語部門は「イッキ! イッキ!」が金賞を受賞し、「トラキチ」は銀賞にとどまっていたので、大賞受賞した今年は「新語・流行語大賞」では、38年ぶりにリベンジを果たした形になりました。
岡田監督率いる阪神タイガースが日本一になった23年の「今年の漢字」で「虎」が選ばれ、05年のリベンジとなることが期待されましたが、こちらはランキング第4位とランキング10位には入りましたが、残念ながら「今年の漢字」には選ばれませんでした。
来年の「今年の漢字」はどうなる?
~「ウクライナ情勢」や「新型コロナ」関連の漢字はランクダウン。景況感に及ぼす影響力が弱まっている現状を反映
昨年22年「今年の漢字」は「戦」でしたが、今年は第3位にとどまりました。22年に「戦」が選ばれた理由は、ロシアのウクライナ侵攻という「戦」争や、その影響で高騰したエネルギー・穀物を主因とした物価高やコロナ禍との「戦」いという暗い面がある一方で、サッカーワールドカップや冬季オリンピックでの熱「戦」や、大谷翔平選手や村上宗隆選手の記録への挑「戦」という前向きな意味もありました。
22年には自由に旅行などが出来ることが「楽」しいということで消費の底堅さを示唆し第3位だった「楽」は、23年では第10位に下がりました。「景気ウォッチャー調査」でも、時間の経過とともにウクライナ情勢や、新型コロナウイルスによる自粛からの正常化といった要因の景況感に及ぼす影響力が弱まってきていますが、「今年の漢字」にも反映されたようです。
~24年はパリ・オリンピック開催年。ショッキングな出来事が起こらなければ「金」か
21年『今年の漢字』は『金』でした。オリンピック・パラリンピックで日本選手が活躍し多くの金メダルを獲得したことや、大谷翔平選手がメジャーリーグを舞台にベーブ・ルース以来のリアル二刀流での大活躍でMVP獲得という金字塔を打ち立てたことなどが選ばれた理由でした。
夏のオリンピック開催年は、調査期間直前に新潟中越地震があった04年の「災」、リーマンショックがあった08年の「変」のようにショッキングな出来事が発生すると別の漢字になりますが、2000年、12年、16年、21年と夏のオリンピック開催年の漢字は4度も「金」になりました。パリ・オリンピックが開催される来年・24年も日本選手の活躍で多くの金メダルが期待されることから、「金」が選ばれる可能性が大きいと思われます。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。