今回は、中小企業の後継者不足が深刻化している理由を見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。
小規模な会社ほど「後継者不在率」が高い現実
社長の高齢化が進む中で、社長の後継者が不在の企業はどの程度あるのでしょうか。まず企業全体をみると、全体のほぼ3分の2にあたる65.4%の企業において、後継者不在となっています。
【図表1 後継者の決定状況(全国・全業種)】
そして、これを社長の年代別にみると、社長が60歳代で会社員であればもう定年間近という年代の企業においても、53.9%と半数以上もの高い割合で後継者が不在です。そして、70歳代においても42.6%が後継者不在であり、更に80歳以上でも34.2%が後継者不在という結果になっています。
【図表2 社長年齢別】
また、これを企業の売上規模別にみると、売上1億円未満の小規模な企業において後継者不在率が76.6%、1~10億円未満の中小企業で67.7%と高い割合になっています。他方で、売上100~1000億円未満の企業で40.8%、1000億円以上の大企業で25.7%と相当低い割合になっています。
【図表3 売上規模別】
少子化、社会構造の変化、価値観の多様化なども理由に
これらのデータからは、中小企業、殊に小規模な企業において、社長の後継者を確保することが困難な状況となっており、その結果として社長の高齢化が進んでいることが分かります。
従来であれば、このような中小企業の多くは、家業として、社長からその跡取りである子供へと承継されていました。しかし、少子化で社長の跡取り候補が不足しています。他方で、社会構造の変化により、中小企業は売上減少の危機にさらされています。
また、社会の価値観、職業選択の多様化により、社長の跡取り候補に人生の選択肢が増えたことによって、跡取りが必ずしも会社を承継せず、後継者が不足して社長交代が進んでいないと考えられます。
松村総合法律事務所
弁護士
国内有数の大手法律事務所のパートナー弁護士を経て、2015年、「最高のリーガルサービスを、リーズナブルな価格でご提供する」を事務所の理念として、松村総合法律事務所を開設。
事業承継、M&A、事業再生を主要な業務としつつ、企業法務全般を取り扱う。
2008年~2012年、駿河台大学法務研究科非常勤講師(倒産法)を務める。
主要な受賞歴として、Chambers Global 2006、及びChambers Global 2005-06において、Corporate/M&Aの分野で高い評価を得る。
多数の会社更生、民事再生等の案件も手がけており、三光汽船のDIP型会社更生事件では、法律家アドバイザーを務めた。
主な著書・論文に、『中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)、『事業再生の迅速化』、『倒産法全書 上巻・下巻』(いずれも商事法務)、『論点体型 会社法4 株式会社Ⅳ(定款変更・事業譲渡・解散・清算)、持分会社』(第一法規)、『総特集 条件緩和企業の債権管理・回収』(『ターンアラウンドマネージャー』銀行研修社)他、多数。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」
税理士法人髙野総合会計事務所 シニアパートナー
公認会計士・税理士
法人の会計税務コンサルティングに精通しているFAS部門に所属。事業再生やM&A、移転価格税制、税務会計コンサルティング全般のほか、中小企業の事業承継、経営コンサルティングなど幅広いジャンルのサポートを行っている。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」
株式会社ストライク 代表取締役
公認会計士・税理士
1997年にM&A仲介・助言専門会社、株式会社ストライクを設立し、代表取締役に就任。インターネット上に日本初のM&A市場「SMART」を設立し、数多くの中小企業のM&Aを仲介するほか、企業評価やデューディリジェンスに携わる。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」