中国スポーツ用品市場で大躍進の「アンタスポーツ」
「2025年に中国市場で首位を目指す」――。安踏体育用品(アンタスポーツ、02020)が掲げる大きな目標だ。
22年の中国スポーツシューズ・ウェア市場での同社シェアは20.4%で、首位のナイキ(22.6%)に肉薄。中国では長らくナイキとアディダスの「2強時代」が続いていたが、この牙城を崩し、国産ブランドがトップに立つ日も近いだろう。
マルチブランド戦略、世界を見据えた経営…アンタの勢いを示す「3つの視点」
今年10月、アンタの投資家向けイベントに参加し、その勢いと将来性を改めて感じてきた。それは、
①マルチブランド戦略
②明確なビジョン
③世界市場を見据えた経営
の3点に集約される。
①のマルチブランド。社名でもある「安踏」が同社売上全体の47.8%、「FILA」が41.3%(いずれも23年6月中間期)と両ブランドで9割近くを占めるが、他にも「デサント」、「コーロンスポーツ」(韓国のアウトドアブランド)、「キングカウ」(高級子供服)などを展開する。
テニスの「ウイルソン」、スキーの「サロモン」などを保有するアメアスポーツにも出資。巧みな買収・提携を通じて業容を拡大してきた。
②のビジョンは、今般のイベントでも強く示された「アウトドア」「キッズ」「女性」への注力方針だ。特に女性向け事業については、中国のヨガウェアブランド「MAIA ACTIVE」の買収(10月に発表)からも本気度が伝わってくる。
同ブランドは「中国版ルルレモン(lululemon)」とも呼ばれ、比較的手ごろな値段と、「映え」を意識したSNSプロモーションを強みに成長。知人も「ルルは高いけどMAIAなら手が届く」とつぶやきながらアリババ系ECの淘宝(タオバオ)のアプリ上で同社製品をポチっていた。
③の世界戦略は五輪と深い関係がある。同社は実は、国際オリンピック委員会(IOC)の公式サプライヤー(契約は27年まで)。来年のパリ五輪でもIOCスタッフのウェア上にアンタのロゴが見られることだろう。
また、クレイ・トンプソンなど複数のNBA選手にシューズを提供しており、国際的知名度も高めている。
「2030年に世界首位」が目標…世界の「ANTA」なるか
さて、中国の国産スポーツブランドといえば李寧(02331)も挙げられるが、直近業績がやや冴えない。23年7~9月期の小売売上高(「李寧」ブランド売り場)は前年同期比で1桁台半ばの増加にとどまった。
一方、アンタは「安踏」が1桁台後半のプラス、「FILA」が10~20%前半の伸びとまずまず。7月以降の株価を見ても、アンタの約14%上昇に対して李寧は約38%下落と明暗が分かれている(~11/7まで)。
冒頭で書いたアンタの野望には続きがある。それはズバリ、30年に世界シェアで首位に立つこと。数年前までは「いやいや、そんなムチャなことを……」と一笑に付されていたかもしれないが、いまなら「もしかしたら実現可能」と思わせる目標だ。
10月末には「ANTA」の文字を加えた新ロゴマークを発表。中国の「安踏」から世界の「ANTA」への飛躍なるか。
奥山 要一郎
東洋証券株式会社
上海駐在員事務所 所長
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