「打倒軍閥!打倒列強!」…民衆の後押しで成立した中国の一大ムーブメント「国共合作」が、崩壊するしかなかった複雑なワケ【世界史】

「打倒軍閥!打倒列強!」…民衆の後押しで成立した中国の一大ムーブメント「国共合作」が、崩壊するしかなかった複雑なワケ【世界史】
(※写真はイメージです/PIXTA)

戦間期、革命が繰り広げられた東アジア。特に中国では、国民党と共産党による「第1次国共合作」が成立し、軍閥打倒のために動き出します。2つの党の思惑が交錯し、のちに起こる「満州事変」も絡み、混迷をきわめていった当時の中国情勢について、『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)の著者で河合塾講師の平尾雅規氏が解説します。

なぜ満州事変は起こったのか

翌28年、蔣介石は国民党だけで北伐を再開。ついに首都北京を占領し、軍閥抗争で勝ち残って実権を握っていた張作霖は自らの本拠地である奉天へ撤退していきました。ここで思わぬ事態が。奉天へ向かう張作霖が列車・橋脚ごと爆破されて殺害されてしまったんです。これは日本の関東軍の仕業でした。

 

満州に南満州鉄道(満鉄)などの権益を持つ日本は、同じ東北地方を勢力範囲とする張作霖を支援してきました。しかし「もはや、没落した張作霖など利用のしがいもない。奉天軍閥はこれで終わりだ。日本自身で東北地方を支配してしまえ」と考えた関東軍によって謀殺されてしまったんです。

 

北京に滞在していて難を逃れた息子の張学良はいち早く奉天軍閥を建て直し、父を殺した日本に立ち向かうため蔣介石の指揮下に入る決断をしました。東北地方を掌握する張学良が蔣介石に忠誠を誓ったことで北伐は完成、中国は(一応)統一されました。

 

以上の経緯が分かると、1931年に満州事変が起こる経緯がスムーズに理解できます。東北地方を制圧する野望を挫かれてしまった関東軍は、満鉄を自ら爆破して張学良の仕業に仕立てあげ、これを口実に東北地方の主要都市を占領!1932年3月、日本は最後の皇帝溥儀をトップとする傀儡国家満州国を建国します。

※世界恐慌をうけて日本も不況に苦しみ、海外市場を求めていた

 

これに対し、事件の不当性を訴えた中国側の要請で国際連盟からリットン調査団が派遣されました。調査の結果、柳条湖事件は関東軍の自作自演であるという結論に至り、調査団の報告を採択する決議に不満を持った日本は、1933年に国際連盟を脱退しました。

 

ところで、上海クーデタ後の共産党はどうなっていたのでしょうか。クーデタの難を逃れた勢力が毛沢東を中心に、江西省の農村地帯に中華ソヴィエト共和国臨時政府を樹立。ということは、実権を掌握する南京の蔣介石は、北の満州国(日本)と南の共産党という2つの敵と同時に対峙することになりましたね。さて、どうするか。

 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋
【図表3】蔣介石時代の戦間期の中国 出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋

中国のなかで割れる意見

同じ中国人なんだから、国共で協力して日本と戦おうと考える人も多かったんですが、反共の蔣介石は「分裂状態の国内を統一するのが先決である」と考え、日本とは停戦して共産党への攻撃を優先させました※1。国民党の総攻撃は苛烈をきわめ、紅軍※2は総崩れとなってたまらず瑞金を脱出。2年に及ぶ逃避行、長征の始まりです。国民党軍に見つからないように劣悪な道なき道を進み、多くの犠牲者を出しながらも延安に到達しました。

※1 この戦略を「案内攘外」と呼ぶ 

※2 中国共産党の軍隊

出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋
【図表4】長征ルートと日中戦争ルート 出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋

 

この長征の途上、モスクワにいる共産党員が「内戦を停止して、国共で団結して日本と戦おう」という趣旨の八・一宣言を発していました。完全無視した反共の蔣介石とは対照的に、宣言に心震えた男がいました。父親の仇をとり、故郷の満州を奪還したい張学良です。

 

そこで彼は、蔣介石が西安※1を訪れた際になんとボスである蔣介石を監禁(西安事件)! 共産党の周恩来※2も説得にあたり、ついに蔣介石に内戦停止を認めさせました。このように国共和解に功のあった張学良ですが、ボスである蔣介石を捕らえた代償は大きく、数十年に及ぶ軟禁生活を強いられることになります。

※1 張学良の軍が駐留していた

※2 黄埔軍官学校時代、蒋介石の捕虜だった

 

1937年7月、日中が軍事衝突した盧溝橋事件から日中は全面戦争に突入しました。蔣介石は紅軍を八路軍として指揮下に入れ、第2次国共合作が成立。日本が国民政府がある南京に攻勢をかけると、蔣介石は長江をさか上るような形で南京→武漢→重慶と政府を移転させました。日本軍を内陸部に引きずり込み補給線を引き延ばしてやろうという魂胆です。

 

日本軍は南京などの沿岸部は押さえたものの、農村部ではゲリラ戦に苦しんで戦線は膠着。重慶を爆撃したり、蔣介石と対立していた汪兆銘を引き抜いて南京に傀儡政権をつくったりしましたが、戦局は好転せず、いたずらに戦線を拡大させただけでした。

 

 

平尾 雅規

河合塾

世界史科講師

 

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※本連載は、平尾雅規氏による著書『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

大人の教養 面白いほどわかる世界史

大人の教養 面白いほどわかる世界史

平尾 雅規

KADOKAWA

「なぜ、戦争や紛争が絶えないのか?」「なぜ、国によって考え方・風習・生活が違うのか?」 ……答えは高校時代に習った世界史の授業のなかにあったはずなのに、大人になったいま、その答えがすっぽりと抜け落ちていません…

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