繁栄を謳歌していたアメリカで株価大暴落…やがて「世界恐慌」へと発展する事態に陥ってしまった“不可避”な理由【世界史】

繁栄を謳歌していたアメリカで株価大暴落…やがて「世界恐慌」へと発展する事態に陥ってしまった“不可避”な理由【世界史】
(※写真はイメージです/PIXTA)

1929年にアメリカで起きた大恐慌は、ヨーロッパやアジアなどの諸外国に波及し、各国は不景気に陥ります。恐慌はなぜ世界中に広がったのか、そして、それぞれの国が対策として打ち立てた経済政策について見ていきましょう。『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)の著者で、河合塾講師の平尾雅規氏が解説します。

景気は後退するも、株価は上昇という“乖離”の末に…

経済的繁栄を謳歌していた1920年代のアメリカですが、懸念材料は確実に積みあがっていました。

 

好況の起爆剤は、大戦中のヨーロッパでの特需で、アメリカが生産した農作物も工業製品も飛ぶように売れましたね。しかし戦後はヨーロッパ産業の復興が進み、農作物に関しては終戦直後からアメリカからの輸出は停滞に転じました

 

1920年代後半に入るとヨーロッパの工業生産も戦前の水準に回復し、アメリカ製品への依存は下がりました。でもアメリカ企業は強気の姿勢を崩さずに生産を続け、在庫が積み上がっていったんです。

 

組み立てラインなどで生産が合理化されてしまったため、人手が余り気味で労働者の賃金も伸び悩むことに…。景気後退の兆しは明らかなのに、株価は上がり続けます。「株を買えば儲かる」という神話が投機熱を煽り、実体経済と株価が完全に乖離する状況が起こりました。

※ 労働者を重要な消費者とみなし、あえて賃金を引き上げたフォードの例もある

 

ついに1929年10月24日、「今の株価は実体経済に対して高すぎる!」と投資家たちが一斉に株を売却し、ウォール街の株価が大暴落!

※ 「暗黒の木曜日」。10月29日も大暴落し「悲劇の火曜日」と呼ばれる

 

ここから大恐慌に突入するわけですが、「株価大暴落によって恐慌になった」というよりは、「アメリカ経済のヤバイ現実が株価大暴落によって明白となり、暴落がさらに悲惨な状況を招いた」と言った方が適切かもしれませんね。

 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋
[図表1]不景気の悪循環(スパイラル) 出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋

 

上の図表1「不景気の悪循環(スパイラル)」は、よく知られているところだと思います。この流れの中で、アメリカの工業生産は半減し、失業率は25%にまで及びました。

 

また、アメリカが不景気になったことで、アメリカの輸入が一気に落ち込みます。外国企業はアメリカに商品を売れなくなって売り上げが落ちるわけで、外国にも不景気が波及しました。

アメリカの銀行は次々に倒産

次に銀行。

 

①企業が倒産すると、その企業に融資していた銀行は資金を回収できず※1、下手すれば破綻。資金不足になった銀行は企業への貸し出しを渋り※2、そのあおりで別の企業が連鎖倒産。

※1 これを不良債権と呼ぶ

※2 株を保有していた銀行が株価大暴落で打撃をうけた側面もある

 

②つぶれそうな銀行から預金を引き出そうと預金者が殺到。こんな風にアメリカの銀行が満身創痍になれば、取り引きがある外国企業も苦しくなります。

※ いわゆる取り付け騒ぎ。銀行が破綻すれば、当然預金はなくなる

 

この時、一番困る外国はドーズ案でアメリカに助けてもらってたドイツですね。相対的安定期を支えたトライアングルの崩壊です。

 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋
[図表2]相対的安定期を支えたトライアングル 出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋

 

フーヴァーの政策

当時の大統領フーヴァーは、ドイツの賠償金支払いなどを1年間猶予するモラトリアムを宣言しますが、積極的な景気対策は打たずじまい。

 

理由をごく簡単に説明します。

 

①従来の「自由放任」にこだわった

 

②均衡財政にこだわった

 

①「政府は経済活動に介入するな。自由な経済活動こそ経済発展の原動力!」という大原則に触れました。彼はこれに従い、景気の自然回復を待ったんです。

 

②当時は国家予算を組むうえで、財政赤字は(戦争でもない限り)絶対悪でした。「税収が減っているのだから、景気対策のための予算なんか計上できない」、という理屈です。

※ 国債の発行

 

「無策」と批判されがちなフーヴァーですが、実は①②に従った彼なりのポリシーを持っていたわけですね。

 

フランクリン=ローズヴェルトの政策

以上が分かると、1933年に就任したフランクリン=ローズヴェルトの政策が理解しやすくなります。放置してるだけではいつまでたっても景気は回復しない、と従来の自由主義に一石を投じ、「修正」を施したんです。

 

①政府は経済活動にある限度まで介入&②赤字覚悟で景気対策をする

 

この理念に基づく彼の一連の政策がニューディールです。自由競争の資本主義社会では、企業は競って商品を生産し、つい余剰が生まれがち。この余剰を売りさばけない状況が不景気。

※ 在庫

 

一方、共産主義であるソ連の企業は全て国営で、政府が状況に応じて生産量をコントロールし、また全ての労働者が平等に賃金を受け取り、商品を買えない貧困層は存在しません。

 

すなわち必ず商品は消費されるわけで、共産主義には(あくまで理論上ですが)余剰生産&不景気が存在しません。政府がプランニングした五カ年計画のもとで、恐慌を尻目にソ連の経済は目覚ましく成長しました

※ 当時アメリカと国交・通商がなかったことも一因

 

この手の、国家がコントロールする経済を計画経済といいます。

 

ローズヴェルトはこれに似た手法を取り入れて生産をある程度調整し、景気回復を図ったんですね。それが農業調整法(AAA)全国産業復興法(NIRA)です。

 

また、ワグナー法で労働者の権利を拡大させました。さらにローズヴェルトは、テネシー川流域開発公社(TVA)に代表される大規模な公共事業によって失業者を吸収しました

※ 政府が予算を計上して、土木建設会社にインフラを整備させる

 

「景気対策でカネをバラ撒まいて財政赤字になっても、景気が回復すれば税収が増えるから、それで借金を返せばよい」という考えです。

 

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※本連載は、平尾雅規氏による著書『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

大人の教養 面白いほどわかる世界史

大人の教養 面白いほどわかる世界史

平尾 雅規

KADOKAWA

「なぜ、戦争や紛争が絶えないのか?」「なぜ、国によって考え方・風習・生活が違うのか?」 ……答えは高校時代に習った世界史の授業のなかにあったはずなのに、大人になったいま、その答えがすっぽりと抜け落ちていません…

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