最近の若手社員は「稼ぎたい!」「出世したい!」がない
年代や役職を問わず、仕事に前向きに取り組んで成長していくには、モチベーションを高め、維持していくことが不可欠です。そのためには、「承認欲求」が満たされることが大きく影響します。
40代、50代の上司世代だと、仕事で成果を出して1つでも上の役職へ出世する。その結果、より多くの収入を得ることで、日常の衣食住を豊かにしていくことがモチベーションの源泉になっているという人も少なくないでしょう。私も同世代ですので、少なからずそういう価値観を持っています。
ところが、今の若手社員の価値観はまったく異なっています。
まずお金については、多くの若者が「普通に生活するのに困らなければそれでいい」と言います。
彼らの言う「普通の生活」の定義についても、どんな家に住みたいのか、どんな食生活を送りたいのかなど日常生活の具体的なイメージを聞いても、若手から答えはほとんど返ってきません。
モノについては、今はサブスクの時代です。所有することへの欲はあまり持っておらず、使用できればそれでいいという価値観が広まっています。車はカーシェアリングかレンタカーで済みますし、そもそも車に興味を持つ若者も少なくなりました。
出世に対する魅力も感じないようで、「大きな責任を負わされてまであわただしく日常を送るぐらいなら、そこそこの地位でマイペースにおだやかに暮らしたい」と言います。「そこそこの地位」というのも主任なのか、係長なのか、課長なのか具体的なイメージを持っていないことがほとんどです。
このように最近の若手社員は、じつにドライというか、将来への夢を明確に持ち合わせていない人が少なくありません。だからか、最近の若手は何の脈絡もなく突然仕事を辞めてしまったりもするのです。
上司がかけるべきは、若手の「貢献欲」を満たす言葉
では、いったい何が彼らのモチベーションアップにつながるのか。
私が新入社員や若手社員への研修で見るかぎり、「貢献欲」が強いことを感じます。
たとえば、若手に「社会人としてどのようなビジョンを描いているか?」と問いかけると、「自分が仕事の知識やスキルを高めて成果を出すことで、会社からの期待に応えたい」「お客様から『ありがとう』という言葉をかけられたい」、そして「上司、先輩をはじめとする周囲の人に貢献したい」という言葉が出てきます。
若手から「トップの成績を収めたい」とか「人の上に立ちたい」といった個人的な成果や成功に関する言葉はまったくと言っていいほど聞かれません。
周囲を押しのけて上にいきたいという思いは持たない若手が多く、組織の中の一員として自分の存在を認められたいという欲求を強く持っていることを感じます。
従来だと、若手を鼓舞しようとするとき、上司や先輩は何か大きな成果を出したことに対して「よくやった!」とか、以前とは見違えるような変化に対して「すごいじゃないか!」と言葉を投げかけます。もちろん悪いことではないのですが、最近の若手社員に向けては少し目線を変えると効果的です。
たとえば、大きな成果を出したことに対しては「助かってるよ」とか、見違えるような変化を遂げたことに対しては「役に立ってるよ」といった言葉をかけるのです。
また、「いつもありがとうね」と何気ない瞬間に軽く言葉をかけるのも、若手社員の貢献欲を満たすことにつながります。
部下に対して「ありがとう」はおかしい?
しかし、この話をすると、部下に対して「ありがとう」という言葉をかけることに強い抵抗感を示す上司が少なくありません。
「なぜ部下にお客様のような扱いをしなくちゃいけないのか?」
「仕事なんだからいちいち感謝する必要はないだろう」
これらがその理由のようですが、果たして本当にそうでしょうか。
「ありがとう」と声をかけることはお客様のような扱いになるのでしょうか。仕事において年下の部下に感謝を示してはいけないのでしょうか。
単に、上司世代は今までそうした習慣を持たなかっただけであり、それによって違和感が生じているだけです。意識的に違和感を越えることが、上司世代にとっても新たな自身の変化につながります。
過去の習慣にとらわれることなく、新しい時代の価値観に適応する。その1つとして若手社員に「ありがとう」と感謝を伝えることによって、職場に笑顔が広がるようになります。
そうした上司の柔らかい表情と姿勢に、若手社員は安心でき、良好なコミュニケーションにもつながってきます。
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<ポイント>
若手社員の「貢献欲」を満たすことがモチベーションアップにつながる
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伊藤 誠一郎
若手社員育成専門コンサルタント
若手社員育成研究所代表
1971年東京都出身。学習院大学法学部法学科卒業後、15年間にわたり医療情報システム、医療コンサルティング分野において提案営業、プロジェクトマネジメントの業務に従事した後、2009年に独立し、プレゼンテーション、提案力向上をテーマに講師活動を開始。その後、ロジカルシンキング、職場コミュニケーション、組織マネジメントなどテーマを広げ、新入社員から中堅社員、管理職まで延べ300社、2万人以上に研修、講演、セミナーを実施。
現在は、多くの若者と接する氷河期世代という二刀流講師としてZ世代と言われる若手社員育成と彼らを育てる上司、先輩のための企業研修、講演を行っている。
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