上司の「ちょっとした悪態」を、若手社員は他人事と思わない
私が講師を務めた、ある新入社員研修で印象的な経験をしたことがあります。
午前中は全員が集中力を持って取り組んでいたものの、午後のパートがはじまってから30分ほど経過すると眠気に襲われている受講者が多数見られてきました。
そこで、私は余談として1つの話をしました。
「人に物事を伝えるためには共感が重要だ」ということを説明するために、若者によく知られている2組のお笑いコンビを例に挙げました。
コンビAは正統派の漫才でわかりやすいネタを武器にトーナメント形式の番組で歴史的な高得点で優勝しました。コンビBも同じ番組で優勝しましたが、正統派というよりもしらけた雰囲気を逆手に取ったスベリ芸を売りにしており、私としてはあまり笑えない漫才という印象を持っていました。
そして、コンビAが笑える要因は、ネタの設定やキーワードが日常的で身近なものが多く誰もが共感できるからであり、コンビBはその真逆なのでまったく笑えないという話をしました。
あくまでも午後の眠気覚ましの余談として、多少は研修のテーマに関連する事柄について気軽に話しただけでした。期待通り、受講者の半開きの目が大きくなり、私はひと呼吸入れた効果はあったという認識でいました。
しかし、事後のアンケートで驚愕の事実が待ち受けていました。
「研修の内容と説明はとてもわかりやすくいろいろな学びはあったが、お笑いの話は受け入れられなかった。お笑いは個人の趣味があり、コンビBが好きな人もいると思うので講師が一方的に決めつけるのはいかがなものか」
このように記載をしたうえで、講師の評価「1点」と最低点をつけた受講者が30人中3人いました。実際に訴えてきた受講生は1割でしたが、同じように抵抗感があったのは半数以上だったかもしれないと思いました。
最近の若手社員は「嫌い」「苦手」「ダメ」というネガティブな表現に抵抗感を持つ傾向があるのです。こうした傾向は、ここ数年の若手社員のみに見られるものであり、5年前や10年前にはありませんでした。
若手は「上司が何気なく使う表現」にその人格を感じてしまう
若手社員の前では、人や物事に対して「嫌い」「面白くない」といったストレートな否定的な表現は使わないようにしてください。
相手が上司や先輩なので、若手は私の研修のアンケートのようにはっきりと異を唱えることはせず、心の内側だけで密かに嫌悪感を抱くことになります。
ちょっとした冗談のつもりが、彼らに抵抗感を持たれることで仕事でのコミュニケーションに支障が出てしまうのは、じつにもったいない話です。
「そんなこと本気で言うわけがない、冗談に決まっているだろう」と、昔ながらのフィーリングのまま歩み寄りを期待しても、若手社員には理解されないと認識してください。
では、どうやってネガティブな内容を上手に伝えるか。表現方法にひと工夫を加えてみてください。食べ物についても「まずい」ではなくて「私にはちょっと味が濃いかな」と婉曲な表現を用いる言葉のエチケットです。
「嫌い」は「ちょっと難しい」に、「面白くない」は「あまり詳しくない」などという言い方にするだけでもマイルドになります。
一方、若手に歓迎されるのは「好き」「楽しい」「有意義」「賛成」「美味しい」という肯定的な表現です。
自分の好みや主張を変える必要はありませんが、言い方をちょっと工夫するだけで自然とポジティブな言葉が増えてきます。そのほうが若手にとって心地良いことはもちろん、上司自身も幸せな時間が増えるようになります。ぜひ一度、ふだんの表現方法についてチェックをしてみてください。
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<ポイント>
好き、楽しい、有意義、賛成、美味しいといった肯定的な表現を増やそう
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伊藤 誠一郎
若手社員育成専門コンサルタント
若手社員育成研究所代表
1971年東京都出身。学習院大学法学部法学科卒業後、15年間にわたり医療情報システム、医療コンサルティング分野において提案営業、プロジェクトマネジメントの業務に従事した後、2009年に独立し、プレゼンテーション、提案力向上をテーマに講師活動を開始。その後、ロジカルシンキング、職場コミュニケーション、組織マネジメントなどテーマを広げ、新入社員から中堅社員、管理職まで延べ300社、2万人以上に研修、講演、セミナーを実施。
現在は、多くの若者と接する氷河期世代という二刀流講師としてZ世代と言われる若手社員育成と彼らを育てる上司、先輩のための企業研修、講演を行っている。
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