最近の若手、「不安を募らせる速度」が想像の1.5倍~2倍速い
「この仕事は自分に向いているのだろうか?」
「これは本当に自分がやりたい仕事なのか?」
若い頃は、新しい環境に自分はやっていけるのかどうかと漠然とした不安を抱えるものです。
上司世代では、「五月病に気をつけろ」などとゴールデンウィーク明けの無気力状態を警戒されたものです。その後、「四月病」という言葉も出てきて、入社から1ヵ月後に不安定になる新入社員の存在が取り沙汰されて久しくなりました。
最近の若手社員は、その不安になるスピードがもっと速まっています。しかも、その傾向は入社直後だけにとどまらず、あくまで私の体感値ですが若手の「このままでいいのか…」と不安になるスピードは上司世代が想像する1.5倍〜2倍ほどです。
したがって、上司が「とりあえず最初は1、2年ぐらいかけて〜」などと悠長に構えていると、若手社員は早ければ半年ほどで勝手に疑問を持ちはじめて、中には会社を辞める結論にまで至ってしまうケースも出てきます。
この想像を超える若手の判断のスピードの速さと、上司の長い目で構える姿勢の差が、若手とのコミュニケーションやメンタルケアの不足、ひいては早期の離職にまで陥る原因となっています。
上司世代が若手を見るときも「1.5倍〜2倍速の意識」が必要
とにかく最近の若者は自分自身のことについては、せっかちで結論を急ぎます。
たとえば、YouTubeなどの動画を視聴するとき、通常のスピードではなく、1.5倍〜2倍速で早見をするという習慣が一般化しているように。もはや早見とは言えず、彼らにとってはそれが通常のスピードになっているほどです。
若者の中にはテレビドラマの録画もスピードを上げて観る人もいるそうで、芝居の間やセリフの緩急によって世界観をつくり出している監督や役者にしてみれば、その意図が十分に伝わらず泣くしかないといったところでしょう。しかし、そうした若者にとっては、話の結末を知ることのほうが優先度は高いようです。
上司は若手にこういった傾向があることを理解したうえで、若手社員のペース感に後れを取らないように1.5倍〜2倍速の意識で彼らに気を配る必要があります。
自分自身のことにはせっかちな一方、相手のことにはのんびり
この少々せっかちな若手社員の傾向が、仕事のスピードにも十分に活かされていれば何も言うことはないのですが、そういうわけでもないのがやっかいなところです。
たとえば、「返答が遅い」という点が挙げられます。
上司からの指示、お客様や取引先からの問い合わせ、他部署からの依頼など、仕事で発生するさまざまな問いかけに対して「すぐに返答する」という姿勢が備わっていない若手社員が多く存在します。
これは学生時代の日常に表れています。高校生に総合型選抜入試の指導をしていると、帰宅後の生徒からLINEを使って次のような質問が飛んできます。
「今ちょうど志望理由書を書いているのですが、句点が原稿用紙のマスの1行の最後にくる場合、最後のマスに書いたらいいですか? 次の行の頭ではないですよね?」
おそらく今まさに文章を書いている最中であろうと、私はすぐに返答をします。
「それで合ってますよ。最後のマスに書いてください」
ところが、なぜかこのメッセージが既読になることが数時間後、中には半日後というケースが少なくありません。
現在進行形で私に質問を投げかけたにもかかわらず、自分が送ったらそれで満足してしまい、すぐに返答がくることはほとんどありません。「なぜ、すぐに目を通して返答しないのか?」と思いながら、若者とのレスポンスのペース感の違いに最初はとまどうことも多かったものです。
もちろん、生徒はこちらを無視しているわけではありません。また、確認と返答が遅くなったことに何の悪気もありません。
「わかりました! お忙しいところありがとうございました!」
一定の時間が経過すると、丁寧な感謝のメッセージがかわいらしいスタンプと一緒にしっかり返ってくるので、やはりコミュニケーションのスピード感に対する意識が違うだけのようです。
また、若者との時間感覚の違いは、こんなところにも表れます。たとえば、高校生にオンラインで指導をする際、「3日後の17時から開始」と約束したとします。
すると、当日17時にパソコンの電源を入れる生徒が少なくないのです。当然ながらパソコンが起動してからソフトを立ち上げて、ZoomのURLをクリックして接続することになりますから、17時ジャストにログインすることなどできるはずがありません。パソコンを再起動する必要が生じて、「すみません、今再起動していますので5分遅れます」「10分遅れます」というLINEを受けとることもよくあります。
「社会人として求められるスピード感」を教える必要がある
私は大学受験の指導も10年を超え、多くの高校生と関わるうちに、良くも悪くもこうしたスピード感の違いにすっかり慣れてしまいました。そして、彼らが大学生になった後のやりとりでもこの傾向は継続されますから、そのまま就職後の社会人生活にも引き継がれていくことは火を見るより明らかです。
しかし、社会人としての仕事には若手に特有のスピード感などは通用しません。電話でもメールでも急ぐべきは急ぎ、急がないものでもできるだけ早く返答するという習慣を身につけなければなりません。午前10時に会議がはじまる場合、10時ジャストに会議室に着くことは許されないようにです。
したがって、相手が上司でもお客様でも他部署でも「余裕を持って前倒しの行動をする」ことが徹底されるように若手社員を教育する必要があります。
場合によっては、社会ではできるかぎり早く返答や行動をしなければならないこと自体を教える必要があります。その際の前提として、若手は自分自身のことにはせっかちだが、相手のことにはのんびりしているという面があることを頭に入れておいてください。
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<ポイント>
若手を1.5倍〜2倍速の意識で観察しながら、すぐに返答することを徹底させる
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伊藤 誠一郎
若手社員育成専門コンサルタント
若手社員育成研究所代表
1971年東京都出身。学習院大学法学部法学科卒業後、15年間にわたり医療情報システム、医療コンサルティング分野において提案営業、プロジェクトマネジメントの業務に従事した後、2009年に独立し、プレゼンテーション、提案力向上をテーマに講師活動を開始。その後、ロジカルシンキング、職場コミュニケーション、組織マネジメントなどテーマを広げ、新入社員から中堅社員、管理職まで延べ300社、2万人以上に研修、講演、セミナーを実施。
現在は、多くの若者と接する氷河期世代という二刀流講師としてZ世代と言われる若手社員育成と彼らを育てる上司、先輩のための企業研修、講演を行っている。
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